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自分の細胞で戦う「樹状細胞ワクチン」

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 5 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:4 日前


※イメージ画像

がん治療には「標準治療」と呼ばれる手術・抗がん剤・放射線に加えて、「免疫治療」と呼ばれる第四の選択肢が近年広まりつつあります。


その中でも特に注目を集めているのが「樹状細胞ワクチン(DCワクチン)」と呼ばれる治療法です。患者さんご自身の免疫細胞を用い、がん細胞を正確に認識・記憶させて攻撃する仕組みは、副作用が少なく、再発予防にも有効であるとして、国内外で研究・実用化が進んでいます。



銀座鳳凰クリニック院長 永井 恒志
■執筆者
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。

 





免疫の司令塔「樹状細胞」とは?


私たちの体には、日々外敵や異常細胞を監視する免疫細胞が存在しています。その中でも「樹状細胞(dendritic cell)」は、もっとも重要な役割を担う“司令塔”です。外部から侵入したウイルスや、体内で生まれた異常細胞(がんなど)を最前線で発見し、それらの情報を「抗原」としてT細胞に伝える役割を果たします。


つまり、T細胞という“攻撃部隊”に対して、「これが敵だ」と情報を届けるのが樹状細胞の仕事なのです。この情報伝達がうまくいくと、T細胞はがん細胞を標的として正確に攻撃を始めることができます。逆に、この司令塔が働かないと、免疫はがん細胞を見逃してしまう可能性があります。




樹状細胞ワクチン療法の仕組み


樹状細胞ワクチンは、患者さん自身の血液から単球という細胞を取り出し、体外で特殊な刺激を与えて“樹状細胞”に育て、さらにがん細胞の情報(抗原)を学習させてから体に戻すという治療法です。これはいわば「がんの顔写真を見せた訓練済みの司令塔」を患者さんの体に戻すようなものです。


体内に戻った樹状細胞は、T細胞に対して「このがんを攻撃しなさい」という明確な指令を出し、免疫システム全体をがんへの攻撃モードに切り替えます。結果として、がん細胞に対する免疫反応が強化され、再発予防や進行抑制に効果が期待されます。


また、副作用が非常に少ないことも大きなメリットです。自分の細胞を使っているため、アレルギーや拒絶反応のリスクがほとんどなく、体への負担が軽い治療法といえるでしょう。




実際の効果と臨床データ


では、樹状細胞ワクチン療法は本当に効果があるのでしょうか?近年、さまざまな研究によってその有効性が確認されつつあります。


たとえば、膠芽腫(脳腫瘍の一種)に対するDCワクチン療法を対象とした大規模なランダム化臨床試験「DCVax-L試験(Liau et al., JAMA Oncology, 2022)」では、ワクチン群の中位生存期間(median OS)が31.4ヶ月に達し、対照群の21.1ヶ月を大きく上回る結果となりました。


また、5年生存率もワクチン群で大幅に上昇し、これまで治療法が限られていた難治性がんにおいて新たな光となっています。


日本国内でも前立腺がん、肝細胞がん、乳がんなどを対象にした治療成績が報告されており、特に再発がんや標準治療終了後の補助療法として高く評価されています。再発リスクが高いがん種において、「最後の砦」としての役割を果たす症例も少なくありません。




標準治療とどう違う?併用のメリットとは


多くのがん治療では、手術・抗がん剤・放射線によって“目に見えるがん”を取り除きますが、それだけでは“目に見えない残存がん細胞”が体内に残っている可能性があります。これが数年後に再発の原因となることも少なくありません。


そこで、樹状細胞ワクチン療法は、こうした微小ながんを「免疫で監視・攻撃」するという役割を担います。つまり、標準治療が“物理的攻撃”なら、DCワクチンは“免疫の警察”として再発を防ぐ働きをするのです。


また、抗がん剤や放射線との併用によって相乗効果が期待されるケースもあります。抗がん剤ががん細胞を一部破壊することで抗原が露出し、それをワクチンで活性化された樹状細胞が素早く取り込んで免疫応答がさらに高まる、という報告も複数あります(Hirano et al., Cancer Immunol Immunother, 2021)。




治療を受けるためには?


現在、樹状細胞ワクチンは一部の先進医療機関や自由診療クリニックで提供されています。保険適用にはなっていないことが多く、費用がネックとなる場合もありますが、「再発を防ぎたい」「副作用が少ない治療を受けたい」「自分の免疫でがんに立ち向かいたい」と考える方にとっては、有力な選択肢の一つです。


治療は通常、数週間に1回、複数回に分けて実施されます。安全性が高く、外来で受けられる場合が多いため、通院しながら治療生活を送ることが可能です。




まとめ:免疫を“目覚めさせる”治療という選択肢


がんとの闘いは、「取り除く」だけではなく、「見張る」ことも重要です。樹状細胞ワクチンは、あなたの体に備わっている免疫の力を最大限に引き出し、がんに対する“監視力”と“攻撃力”を高めてくれる治療法です。


特に「手術が終わってからが不安」「再発が怖い」という方にとって、DCワクチンは心強いパートナーとなり得ます。副作用が少なく、あなた自身の細胞でがんに立ち向かう——それがこの治療法の最大の魅力です。



もっと詳しく知りたい方


▼銀座鳳凰クリニックの樹状細胞ワクチン療法

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