再生医療
─脂肪由来幹細胞治療─
再生医療とは
西洋医学は自然現象を観察し、その構成要素を細かく分け続けて今日の形になりました。最初は臓器単位で研究し、その後、組織の単位で調べ、さらに細胞、分子、遺伝子とひたすら構成要素を細かい単位に分解して全体像を掴もうと努力してきたのです(要素還元論)。
その結果、何が明らかになったかというと、部品をいくら調べても全体の機能は分からないということでした。各部品はお互いに作用しながら全体的な機能を発揮しているので、一部の部品だけを一生懸命研究しても得られることは極めて少ないのです。自然を構成する天文学的な数のパーツから考えると、大海の一滴に相当するほど微々たる知識しか得られません。
それでも人間は本能的な知的探求心に駆り立てられて自然の解明に挑み続けるでしょうし、それはそれで学問として意義のあることです。しかしそれと病気の治療とは別に考える必要があります。
病気の治療を考える時に最も重要なことは、治療に用いる人体の構成単位をどこにするかです。遺伝子は細かすぎるし、分子も天文学的な経路で把握しきれない。よく考えれば一つの生物として理解されうる単位はあくまで細胞であることに気がつきます。単細胞生物は細胞1個で構成されています。これは生物としての最小単位です。人間は30兆とも60兆ともいわれる細胞の集合体です。細胞同士がコミュニケーションを取りながら一つの生命体としての人体を構成しています。
したがって多くの病気は細胞レベルで考えなければ解決できません。再生医療はまさに細胞を単位として病気を治そうとする医療分野で、治療学の理論からして最も的を射た治療法であると言えます。
再生医療にかかわる3種類の幹細胞
わたしたちの身体は約60兆個の細胞からできています。すべての細胞が時間と共に機能を失っていきます。この機能を失った細胞に代わり新たな細胞を生み出す特殊な能力を持った細胞が「幹細胞」です。
ES細胞
受精卵からつくられる幹細胞ですべての細胞になる能力を持っていますが本来赤ちゃんになる細胞を使うので倫理的な問題があります。
iPS細胞
皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を人工的に挿入することで作られる幹細胞です。ES細胞と同等の能力を持ちますが、人工的に作られたことによる予想外のリスク、特にがん化が問題になっています。
体性幹細胞
骨髄や脂肪から採取した幹細胞でいくつかの異なった組織や臓器に分化する能力を持ちます。自分の細胞を利用するので副作用が極めて出来にくくメリットが大きいです。当院は使用している脂肪由来間葉系幹細胞はこの体性幹細胞に属します。
幹細胞4つの特性
幹細胞には「自己複製能」、「ホーミング効果」、「分化能」、「定着能」の大きな4つの特性があります。この特性を持つ体性幹細胞として脂肪・臍帯・胎盤・骨髄・歯髄由来の幹細胞がありますが、脂肪由来幹細胞は採取が容易で多くの量を得ることができるので最も臨床応用が進んでいます。
自己複製能
同じ幹細胞を増やすことができる
幹細胞は分裂増殖しながら自分と同じ幹細胞を作ることができます。これは他の成熟した細胞にはない特性です。たくさんの幹細胞がいれば常にたくさんの幹細胞を補充することができます。
ホーミング効果
治す場所を自分で見つけて駆けつける
損傷のある組織は血中にSDF-1というSOSシグナルを発信しています。幹細胞はこのSDF-1の発信源に自ら集まり修復作業を行います。これをホーミング効果と言います。損傷があっても症状があるとは限りません。症状が出ているときには相当大きな損傷があると言うことです。症状が出ていないうちに幹細胞が全身各所の損傷部位を修復してくれることで発病を予防することもできます。
分化能
いろいろな細胞に変化することができる
幹細胞は必要に応じてさまざまな細胞に変化することができます。これを分化能と言います。幹細胞は成熟細胞が不足している部位で増殖し分化して機能を補います。
定着能
治すべき場所にきちんととどまる
幹細胞はさまざまな生理活性物質を分泌しながら血中を循環し、全身の細胞を活性化して生体機能を高めます。さらに点滴投与した幹細胞の10~15%はホーミング効果により損傷部位に集まり、そこにとどまって増殖すると考えられています。そして自己増殖して幹細胞を補充したり、あるいは組織特有の細胞に分化したりします。