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ワクチンと免疫:がん予防との関係

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 4月18日
  • 読了時間: 5分


「がんは予防できない病気」と思われがちですが、実は一部のがんについては、ワクチン(予防接種)によって発症を防げることがわかっています。


この「予防のための免疫活用」は、これまで“治療法”として注目されてきた免疫療法の発想を、“未然に防ぐ”という新しい方向に広げていく試みです。


今やがん予防は、生活習慣の見直しだけではなく、「免疫を使って守る」時代に入りつつあります。今回は、がん予防に使われているワクチンの現状と将来性について詳しく解説します。


銀座鳳凰クリニック院長 永井 恒志
■この記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。






がんを引き起こすウイルスがある?


すべてのがんが感染症によって起こるわけではありませんが、実際にがんの約10〜15%は、ウイルスや細菌による慢性感染が原因であることが明らかになっています。


その代表的なものが以下の3つです:

ウイルス・細菌

関連するがん

ヒトパピローマウイルス(HPV)

子宮頸がん、肛門がん、咽頭がんなど

B型・C型肝炎ウイルス(HBV・HCV)

肝細胞がん

ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)

胃がん

これらはすべて「慢性炎症を起こす→細胞の変異が進む→がん化する」というメカニズムを持っており、感染予防やウイルス排除がそのまま“がん予防”につながるという特徴があります。




HPVワクチン:子宮頸がんを予防する代表例


ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交渉を通じて感染し、多くの場合は自然に排除されますが、一部は子宮頸部の細胞に長期間残存し、がん化(子宮頸がん)を引き起こします。

これに対して、日本でも接種が推奨されているのがHPVワクチン(ガーダシル、シルガード9など)です。


定期接種:小学6年〜高校1年相当の女子(希望者には男子への接種も推奨)

予防効果:HPV感染を90%以上予防し、前がん病変の発生率を約80%減少


世界的にも導入が進んでおり、オーストラリアでは子宮頸がんの“根絶”が現実に近づいているとされています。


このように、がんを“防ぐワクチン”はすでに現実のものとなっているのです。




肝炎ワクチン・治療による肝がん予防


肝臓がんの多くは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)による慢性感染が原因です。日本では特に高齢者に多く、過去の輸血や注射器の使い回しが感染源でした。


現在では、

  • B型肝炎ワクチンによる新規感染の予防

  • 抗ウイルス薬(DAA)によるC型肝炎の根治

が進んだことで、肝がんの新規発症を抑えることに成功しています。

実際、B型肝炎ウイルスが根絶された台湾では、肝がんの罹患率が数十パーセント減少したという報告もあります。


つまり、ワクチンや治療によるウイルス制御は、がんの一次予防(原因除去)そのものなのです。




将来のがん予防ワクチンはどう進化する?


現在開発中の“次世代がん予防ワクチン”は、ウイルス感染以外のがんにも適用される可能性があります。



「がん抗原」に基づく予防ワクチン


WT1、MAGE-A3、NY-ESO-1など、複数のがんで共通に発現する抗原を使ったワクチンが研究中。


将来的には「遺伝的にがんになりやすい人」に対して予防的に投与することも検討されています。



mRNAワクチンを活用したカスタムワクチン


新型コロナで話題になったmRNA技術を、がん予防にも応用。


特定の遺伝子変異を持つ人(BRCA1/2など)に対して、事前に“がんに備える免疫”を育てるワクチンが検討されています。



AIによる「がん予測+予防免疫」


AIが遺伝子データを解析し、「10年以内にがん化しやすい体質」を予測。そのリスクに対して、あらかじめ免疫を誘導するカスタムワクチンの開発が進んでいます。


これらはまだ研究段階ですが、今後10〜20年の間に、「がんになる前に打つワクチン」がより多くの人に届く時代が来るかもしれません。




ワクチンだけに頼らず、免疫の基礎体力も大切


もちろん、ワクチンはあくまで“誘導スイッチ”であり、その効果を維持・発揮するには体の免疫環境が整っていることが前提です。


  • 十分な睡眠

  • 腸内環境の最適化

  • 栄養バランス

  • 慢性炎症のコントロール(ストレス、糖尿病など)


といった、日々の生活習慣が“ワクチンの効きやすさ”を左右します。

つまり、ワクチンと生活の掛け算が、がん予防の成功を左右するのです。




まとめ:がんを「治す」だけでなく「防ぐ」時代へ


これまでのがん医療は「できてしまったがんをどう治すか」に重点が置かれてきました。


しかし、ワクチンによる免疫誘導という手段は、がんができる前に防ぐというまったく新しい選択肢を提供してくれます。


すでに私たちの生活の中には、「がんを防ぐワクチン」が静かに浸透し始めています。

今後は、さらに多くのがん種で“予防免疫”という考え方が広がり、「がんにかかる人を減らす社会」が実現されていくでしょう。

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