緩和ケアをすすめられた=治療を終えるではない|“生き方”を整える時間
- 院長 永井 恒志
- 4月25日
- 読了時間: 4分
更新日:4月28日

「緩和ケアを受けてみませんか」
医師からそう伝えられたとき、
「もう何も治療できないのか…」「いよいよ最期が近いのか…」と不安や絶望を感じる方も多いと思います。
ですが、それは大きな誤解です。
緩和ケアは、“命の終わり”を告げるものではありません。むしろ今をよりよく生きるための、“新たな医療のステージ”なのです。
今回は、緩和ケアの意味とその先にある選択肢について、一緒に考えていきましょう。

緩和ケアとは?「治療を諦める」ではありません
厚生労働省による定義では、緩和ケアとは:
「がんを患う人とその家族に対し、痛みなどの身体的苦痛、心理的・社会的・スピリチュアルな問題を的確に評価し、それを和らげるための包括的医療」
つまり、緩和ケアは「治療の後」ではなく、「治療と同時に行う支援」というのが、現代のがん医療の常識です。
痛み・倦怠感・息苦しさの軽減
不安・孤独感への心理的支援
ご家族の介護・生活サポートへの助言
生き方・価値観の再構築への寄り添い
治すことよりも、「どう生きるか」「どう穏やかに過ごせるか」に焦点を当てた医療。 それが、緩和ケアです。
緩和ケアをすすめられた=治療をやめる、ではない
緩和ケアをすすめられたときに最も多い誤解が、 「治療をもう何もできないという意味」というものです。
しかし、近年では、
緩和ケアと抗がん剤治療を並行して行う
緩和ケアを受けながら免疫療法や分子標的薬を継続する
一時的に治療を休止し、体調が整えば再開する
といったケースが増えてきています。
実際に、緩和ケアを早期導入した患者さんのほうが、生存期間が延びたという研究結果(Temel et al., NEJM, 2010)もあります。
治療の可能性は完全には閉ざされていない
緩和ケアを受ける段階であっても、次のような治療が検討されることがあります:
免疫細胞療法・樹状細胞ワクチン療法(自由診療)
身体への負担が少なく、体力のある範囲で継続できる
がんを“治す”というよりも、進行抑制・QOL維持を目指す
医師と相談しながら、安全性・費用・効果のバランスを見極めることが大切
臨床試験(治験)の参加
先進的な免疫療法や分子標的薬の試験が、標準治療終了後の患者を対象に実施されていることがあります
がんゲノム解析の結果によって参加できるケースもあるため、主治医やがん相談支援センターに確認を
症状緩和を目的とした放射線・抗がん剤
がんによる出血や骨転移の痛みを和らげるために、緩和的放射線治療を行うことがあります
低用量の抗がん剤を使って、腫瘍のコントロールを最小限の副作用で図る治療もあります
緩和ケアチームとは?あなたを支える多職種の専門家
緩和ケアは、医師ひとりで行うものではありません。 あなたを支えるのは、チームです。
緩和ケア医・がん看護専門看護師
薬剤師(疼痛コントロール)
臨床心理士(不安・うつへの支援)
医療ソーシャルワーカー(介護・お金・家族の悩み)
チャプレンやスピリチュアルケアスタッフ
心の痛みも、身体の苦しみも、すべて“治療対象”として受け止めてもらえる それが緩和ケアの本質です。
家族との時間、自分らしい日々を守るために
緩和ケアの目的は、“最期まで自分らしく生きること”です。
家族と一緒にごはんを食べる
痛みなく眠れる
行きたい場所へ行く
最後の願いを叶える
これらは、治療と同じくらい大切な「命の時間」を支える医療です。
まとめ:緩和ケアは「希望をあきらめる場所」ではなく、「生きる力を育む場所」
緩和ケアをすすめられたとき、 それは「終わりの宣告」ではありません。 “あなたらしさ”を取り戻す、あたたかい医療のはじまりです。
治療が終わっても、あなたができること、選べることはまだあります。“生きる”ということの意味を、自分で選び取っていく。
その時間を、緩和ケアが支えてくれます。