50代に多い「がん」 ― 体の変化と早期発見・予防のポイント
- 医師 柳井 啓文

- 10月23日
- 読了時間: 9分

50代になると、仕事も家庭も充実してくる一方で、体の内側では少しずつ「変化」が始まります。その中でも特に注意が必要なのが「がん」。日本人の2人に1人が一生のうちにがんになるといわれていますが、実際に発症が増え始めるのが、ちょうどこの50代ごろです。
ここでは、50代で気をつけたいがんの種類や、早期発見・予防のポイントをわかりやすくお伝えします。
どうして50代でがんが増えるの?
がんは、突然発生するのではなく、比較的長い期間をかけて、少しずつ体の中に“芽”を出します。 若いころからの生活習慣や環境の影響が積み重なり、その芽の成長速度とご自身の免疫系による監視とのバランスが崩れ始めるのが50代なのです。そして、監視の目をくぐりぬけたその芽は「目に見える病気」として、つまり「がん」として現れます。
主なしくみは次の通りです。
細胞の修復力が落ちる:年齢とともに細胞のDNAを修復する働きが弱まり、変異が蓄積しやすくなります。この“修復ミス”の積み重ねが、がんの芽を育てるきっかけになります。
免疫力の低下:本来、体内で生じた異常な細胞は免疫細胞(NK細胞・NKT細胞など)が排除しますが、50代になると「NKT細胞」や「NK細胞」といった免疫系細胞の機能が低下し、芽自体の成長に伴ってがん細胞が見逃されやすくなります。
ホルモンの変化:女性では更年期を境にエストロゲンやプロゲステロンの変動が起こり、乳腺や子宮内膜の細胞が刺激を受けやすくなります。男性では男性ホルモンの影響が変化し、前立腺の増殖リスクが上昇します。
生活習慣の影響:食習慣の欧米化、飲酒・喫煙、睡眠不足、運動不足などが慢性炎症や酸化ストレスを引き起こし、細胞を傷つけやすくします。これらが長年にわたって重なることで、がん発生の土壌が整ってしまうのです。
男性・女性で違う、50代で多いがん
男女で「かかりやすいがん」は少し異なります。それぞれの特徴を見てみましょう。
男性で多いがん
主な部位 | 特徴 |
|---|---|
大腸がん | 食生活(高脂肪・低食物繊維)や運動不足が深く関係します。ポリープは長年かけてがん化することが多く、50代から増加傾向が見られます。初期症状はほとんどなく、便潜血検査や大腸内視鏡での早期発見が重要です。 |
胃がん | 主な原因はピロリ菌感染です。感染による慢性胃炎が長期に続くことで、粘膜の異常が蓄積します。塩分の多い食事や喫煙もリスクを高める原因にあげられます。内視鏡検査による定期チェックが有効です。ピロリ菌の感染も比較的簡単に検査が可能です。(日本は比較的ピロリ菌の感染が多いといわれています。年々低下傾向である者の、50歳以上では70-80%もの感染率と指摘されています。) |
肺がん | 喫煙・受動喫煙が最大の危険因子です。特に喫煙歴の長い方では、咳・痰・血痰・息切れなどの症状が出る前に検査を行いましょう。最近は非喫煙者でも発症する「腺がん」も増加傾向のようです。胸部レントゲンや胸部CTで早期発見を目指します。 |
前立腺がん | 50代後半から急増します。初期は自覚症状がほとんどなく、排尿トラブルが出てから気づくこともあります。PSA(前立腺特異抗原)検査で簡単にチェックでき、早期発見・治療により良好な経過が期待できます。 |
肝がん | B型・C型肝炎ウイルス感染や脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝炎)やアルコール性肝炎などが背景となることが多いです。自覚症状が出にくく、超音波検査・血液マーカーなどによる定期的な確認が重要です。 |
女性で多いがん
主な部位 | 特徴 |
|---|---|
乳がん | 発症のピークは40〜50代です。女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けやすく、出産回数や授乳歴、肥満、飲酒といった生活習慣などがリスク要因となります。しこりのほか、乳頭分泌や皮膚のへこみなどがサインとなります。マンモグラフィや乳腺エコー検査で早期発見が可能なため、定期検診が重要になります。 |
大腸がん | 食生活の欧米化(肉・脂肪の摂取増加)や便秘、運動不足などがリスクとなります。女性では左側の大腸(S状結腸、直腸)がんが多い傾向があります。初期は自覚症状に乏しく、便潜血検査や内視鏡検査での早期発見が重要となります。 |
子宮体がん | 閉経前後に多く、女性ホルモンのアンバランスや肥満、糖尿病などがリスク因子となります。不正出血や下腹部の違和感に注意が必要です。経腟エコー検査・子宮内膜細胞診で診断が可能となります。早期発見で高い治癒率が期待できるため、定期的な検診が重要です。 |
肺がん | 非喫煙者でも発症することがあり、特に女性では腺がんが多い傾向があります。受動喫煙や大気汚染、遺伝的要素が関係します。症状が出にくいため、定期的な胸部レントゲン検査や胸部CT検査によるスクリーニングが有効となります。 |
胃がん | 男性と同様に主な原因はピロリ菌感染です。除菌により予防できるケースがありますので積極的な除菌が推奨されています。女性では貧血や食欲不振などの軽い症状で見つかることもあります。内視鏡検査での定期チェックを推奨します。 |
(参考:国立がん研究センター「がん統計2023」)
「早期発見」がいちばんの鍵

がんは、症状が出てからでは進行していることが多い病気です。 50代からは「毎年の検診」を生活の一部にすることがとても大切です。
(生活の乱れを自覚されている場合は、40代から定期的に行うことも考慮してよいと思います)
主な検査と目安
検査 | 頻度の目安 | 対象となるがん |
|---|---|---|
胃カメラ・バリウム検査 (胃カメラの方が早期発見率が高いです) | 2年に1回 (ピロリ菌感染歴がある人は除菌後も毎年内視鏡が望ましい。) | 胃がん |
大腸内視鏡・便潜血検査 | 便潜血:年1回 内視鏡:3~5年に1回(ポリープ既往・家族歴などあれば短縮を検討) | 大腸がん |
胸部CT・胸部X線 (通常の検診では胸部X線検査が行われています。非喫煙者でも家族歴・遺伝素因がある場合は胸部CT検査を検討してもよいかもしれません。) | X線:年1回 CT:ハイリスク群は年1回 | 肺がん |
PSA血液検査 | 年1回 | 前立腺がん(男性) |
マンモグラフィ・超音波検査 (乳腺が密な40〜50代は超音波併用が望まれます。また、家族歴・BRCA遺伝子変異があることがわかっている方は30代後半から毎年が望ましいです) | マンモ:2年に1回 超音波:年1回併用が望ましい | 乳がん(女性) |
子宮頸がん検診(細胞診)/子宮体がん検査 (頸がんは20歳代が発症のピークであり20歳以上が対象となります。 体がんは閉経後出血・不正出血などがあれば早期検査を行いましょう。 HPV検査との併用(5年ごとなど)が欧米では主流化中。) | 頸がん:2年に1回 体がん:症状・リスクに応じて適宜 | 子宮頸がん・子宮体がん(女性) |
早期に発見されたがん(ステージI)では、ほかのステージ(進行度)に比べて治癒率は高いといわれています。 検診は「病気を見つけるため」ではなく、「健康を守るため」「安心を積み重ねるため」の大切な習慣と考えましょう。一度きりではなく、毎年・数年ごとのリズム検診を続けることが、みなさまの健康寿命を延ばす鍵になります。
年齢と共に弱まる免疫力 ― 新しい選択肢「免疫療法」
50代以降は、体の中でがん細胞を監視し、見つけ出して、攻撃する「免疫システム」の力がだんだん弱まっていきます。この免疫の力を回復させるために、近年注目されているのが免疫細胞療法です。
αGalCer樹状細胞ワクチン療法
樹状細胞(がんの監視システムにおける、免疫の司令塔のような細胞)に「αGalCer」という物質を組み合わせ、体内のNKT細胞を活性化する治療です。研究では、進行がん患者様で免疫反応の改善が見られた例も報告されています(Ishikawaら, Clin Cancer Res, 2005)。
当院の治療:α-GalCer+WT1樹状細胞ワクチン療法
NKT細胞の補充療法(商品名:NKT三種免疫細胞療法)
抗腫瘍免疫システムにおいて非常に重要な(患者様自身の)NKT細胞を体外で増やし、再び体内に戻すことで免疫力を立て直す方法です。特に、αGalCer樹状細胞ワクチンと組み合わせることで、抗腫瘍免疫を長期間維持できる可能性が示唆されています。
当院の治療:NKT三種免疫細胞療法
こうした免疫療法は、手術や抗がん剤、放射線治療を補う形で行うことで、再発予防や生活の質(QOL)の向上につながると期待されています。
実際当院でも、これらの免疫細胞療法を組み合わせることで、がん治療を行ってがん縮小を達成してきました。
まとめ ― 「50代」はがん対策のターニングポイント
50代は、がんが増え始める年代。
定期的な検診と生活習慣の見直しで、多くのがんは予防・早期発見が可能。
免疫の衰えを補う治療として、αGalCer樹状細胞ワクチン療法+NKT細胞療法なども注目されている。
がんは「早く見つけて」「免疫力を保つ」ことで、十分に立ち向かえる病気です。
50代からの体の変化を知り、日々の健康管理を大切にしていきましょう。
当院はがん免疫療法専門のクリニックです。
銀座鳳凰クリニックは、「患者様の『生きる』にすべてを尽くす」をモットーに、転移がんや進行がんの患者様に対して免疫細胞治療を専門的に提供しています。

当院では、患者様ご自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増殖・活性化させた後、再び体内に戻すことで、免疫細胞ががん細胞をより効果的に認識し攻撃するよう促す治療を行っています。
主な治療法としては、
など患者様一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案しています。
※治療の適応や併用の可否に関しては医師にご相談ください。
さらに、院内に細胞培養加工施設を併設しているため、採取から培養・品質管理・投与までを院内で完結でき、外来通院で治療を受けていただけます。
銀座鳳凰クリニックは、患者様一人ひとりのがんの状態やご希望に合わせて、そのときどきで最適な治療をきめ細かくご提案しています。
標準治療が難しいと診断された方や、治療の選択肢に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。
-がん治療・免疫療法について-

■記事監修
銀座鳳凰クリニック医師
柳井 啓文
医師・医学博士。救急・集中治療医としてドクターヘリなどの救命最前線で重症患者の治療に携わる一方、オーストラリアで基礎・臨床研究に従事し複数の国際研究グループを主導、100編超の英語論文を発表。救急現場で培った判断力と先端研究で得た科学的視点を併せ持ち、再生医療・細胞治療の医療実装を推進している。





