食道がんステージ4と胃ろう ― 最期まで「食べる」を支えるために
- 医師 柳井 啓文

- 11月14日
- 読了時間: 6分
更新日:11月21日

食道がん(しょくどうがん)は、食べ物を口から胃へ運ぶ「食道」にできるがんです。早期に見つかれば手術や内視鏡治療で治ることもありますが、進行して「ステージ4」と診断される場合、がんが他の臓器(肺や肝臓など)に転移していることが多く、根治(完全に治すこと)が難しくなります。
しかし、「治すことが難しい=何もできない」わけではありません。食道がんステージ4の方にとって大切なのは、「少しでも快適に過ごす」「食べる楽しみを保つ」「体を支える」ための治療とケアです。
ここでは、「胃ろう(いろう)」を中心に、食道がんステージ4の方の栄養管理や治療の考え方をわかりやすく解説します。
食道がんステージ4とは?
食道がんの「ステージ4」は、がんが食道の外に広がったり、遠くの臓器に転移している状態です。 一般的に次のような状態が含まれます。
リンパ節転移が広範囲にある
肺・肝臓・骨などへの転移がある
他の臓器へ浸潤(しんじゅん)している
この段階では、根治的な手術が適応とならない場合が多いため、食道にある原発巣は少しづつ大きくなり、ついには食道の通り道が狭くなり、「食べ物がつかえる」「飲み込みづらい」という症状が強くなります。
そのため、最終的には十分に食事をとることが難しくなる方が多いです。栄養は体の機能を維持していくためには必須であり、食事がとれない患者様は日に日に衰えていってしまいます。
胃ろうとは?
「胃ろう(いろう)」とは、おなかの皮膚から胃に直接チューブを入れて栄養を送る方法です。
口から食べることが難しくなったときに、栄養や水分、薬を安全に胃へ届けることができます。延命のようなイメージをもたれる方がいらっしゃいますが、多面的な意義のある治療方針を大きくサポートする処置になります。


胃ろうの主な目的
食道がんの狭窄(きょうさく:通り道が細くなる)で食べられないときに、栄養を直接胃内に投与して補う(栄養分の安定した投与が可能)
体力や免疫力を維持し、治療やリハビリを続けられるようにする
誤嚥(ごえん:食べ物が気道に入ること)を防ぐ (誤嚥やむせ込みのリスクが減ることで、介護者の安心感やケアの効率化につながります。在宅介護でも管理しやすいという利点があります。)
胃ろうの造設(作る)手術は、通常は内視鏡を使い、1時間ほどで行える比較的安全な処置です。
胃ろうを作るタイミング
ステージ4の食道がんでは、「飲み込みづらさ」が進行すると、栄養不良になりやすくなります。医師は次のようなサインをもとに胃ろうを検討します。
食事が1日の半分もとれない
体重が急激に減ってきた
脱水や栄養低下で点滴が必要になっている
今後、抗がん剤や免疫療法を続けるために栄養を確保したい
誤嚥(ごえん)やむせ込みが増え、食事のたびに不安がある
一時的に経口摂取が難しいが、回復が期待される場合
胃ろうを早めに検討することで、体力を保ち、治療やリハビリを続けやすくなるという利点があります。
治療の目的は「延命」だけではない
ステージ4の食道がんでは、手術でがんを取り切ることは難しいですが、治療の目的を「生活の質」に置くことがとても大切です。
治療の選択肢には以下のようなものがあります。
(1)抗がん剤・免疫療法
抗がん剤(化学療法)により腫瘍の進行を抑え、食べやすさやのどの通りやすさが改善することがあります。
最近は免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブなど)が、進行食道がんにも使われるようになりました(Kato et al., Lancet Oncol, 2019)。
一部の方では長期生存も報告されています。
(2)NKT細胞・樹状細胞ワクチン療法(当院での取り組み)
近年、がん免疫の中心的役割を担う「樹状細胞」や「NKT細胞」に注目が集まっています。樹状細胞は免疫の司令塔として、がん抗原の提示と各種T細胞の活性化を担います。 NKT細胞は、がん細胞を直接攻撃するだけでなく、NK細胞やT細胞を活性化させ、全体の免疫バランスを立て直す働きがあります。
特に、α-GalCer樹状細胞ワクチン療法とNKT細胞の補充療法(商品名:NKT三種免疫細胞療法)を組み合わせることで、
・がんの免疫逃避を抑える
・抗腫瘍免疫を長期間維持する
栄養状態を整えるための胃ろうと、免疫を高める治療を組み合わせることで、「食べる力」と「生きる力」を両方支えることが期待できます。
当院の治療
胃ろうでも「口から食べる」ことを諦めない

胃ろうを作ったあとも、口から少しでも食べることは可能です。リハビリや嚥下訓練を続けることで、「味わう」「楽しむ」食事を維持できることがあります。
医療チーム(医師・栄養士・言語聴覚士など)が連携し、「安全に」「少しでも美味しく」食べられる工夫をサポートします。
まとめ:胃ろうは「食べる」を支える
食道がんステージ4では、がんの進行とともに「食べづらさ」「体力低下」が進む
胃ろうは、栄養を守り、治療を支える大切な手段
治療の目的は「延命」だけでなく「質の高い生活を送ること」
α-GalCer樹状細胞ワクチン療法やNKT細胞補充療法は、全身の免疫を整える新しい選択肢
「もう食べられない」ではなく、「どうすれば食べられるか」を一緒に考える―― それが、ステージ4の食道がんと向き合ううえで大切な第一歩です。
当院はがん免疫療法専門のクリニックです。
銀座鳳凰クリニックは、「患者様の『生きる』にすべてを尽くす」をモットーに、転移がんや進行がんの患者様に対して免疫細胞治療を専門的に提供しています。

当院では、患者様ご自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増殖・活性化させた後、再び体内に戻すことで、免疫細胞ががん細胞をより効果的に認識し攻撃するよう促す治療を行っています。
主な治療法としては、
など患者様一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案しています。
※治療の適応や併用の可否に関しては医師にご相談ください。
さらに、院内に細胞培養加工施設を併設しているため、採取から培養・品質管理・投与までを院内で完結でき、外来通院で治療を受けていただけます。
銀座鳳凰クリニックは、患者様一人ひとりのがんの状態やご希望に合わせて、そのときどきで最適な治療をきめ細かくご提案しています。
標準治療が難しいと診断された方や、治療の選択肢に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。
-がん治療・免疫療法について-

■記事監修
銀座鳳凰クリニック医師
柳井 啓文
医師・医学博士。救急・集中治療医としてドクターヘリなどの救命最前線で重症患者の治療に携わる一方、オーストラリアで基礎・臨床研究に従事し複数の国際研究グループを主導、100編超の英語論文を発表。救急現場で培った判断力と先端研究で得た科学的視点を併せ持ち、再生医療・細胞治療の医療実装を推進している。





