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個別化医療の時代へ:がん免疫療法の未来

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 4月18日
  • 読了時間: 5分


これまでのがん治療は「病名(たとえば肺がん)に対して、標準的な治療を当てはめる」というスタイルが一般的でした。


しかし、同じ「肺がん」という診断名でも、遺伝子の構造やがん細胞の性質、免疫の状態は患者さんごとに大きく異なります。


つまり、「一人ひとりのがんは、まったく違う顔をしている」のです。


こうした背景から今、注目を集めているのが「個別化医療(Precision Medicine)」という考え方。中でも、免疫治療はこの個別化の恩恵を最も強く受ける分野のひとつです。


今回は、がん免疫療法がどのように個別化されていくのか、その未来像をお伝えします。



銀座鳳凰クリニック院長 永井 恒志
■この記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。





個別化医療とは?


個別化医療とは、患者一人ひとりの

  • 遺伝子情報

  • 腫瘍の免疫状態

  • 体質や副作用のリスク

  • 生活環境

などを加味して、「その人に最も合った治療」を科学的根拠に基づいて選択する医療のことです。


がんにおいては、特に以下の2点が重視されます:

  • がん細胞の遺伝子(ゲノム)解析

  • 免疫プロファイル(腫瘍内の免疫細胞の種類や分布)


これらを基に、「どんな治療薬が効きやすいか」「どの免疫治療が適応か」を客観的に予測することができるようになってきました。




遺伝子レベルでがんを“見える化”する時代に


現在、日本を含む多くの国で「がんゲノム医療」が本格化しています。患者さんの腫瘍から遺伝子を解析し、がんの“設計図”を読み取ることで、以下のような情報が得られます:


  • どんな遺伝子変異があるか(EGFR, KRAS, BRAF, p53 など)

  • がん細胞の突然変異の量(TMB)が多いか少ないか

  • MSI-H(ミスマッチ修復異常)があるかどうか


例えば、MSI-Hのがんは免疫チェックポイント阻害剤に高い反応を示すことが知られており、厚労省でも保険適用が認められています。


このように、「がんの遺伝子構造を知ること」が、免疫治療の適応判断にもつながっているのです。




免疫の個性を見極める:腫瘍免疫プロファイル


遺伝子だけではなく、「免疫の状態」も人によって異なります。現在では、腫瘍内の免疫環境を評価する免疫プロファイリングも進化しています。


例:

  • CD8+T細胞が腫瘍にどれくらい侵入しているか

  • Treg細胞やマクロファージ(TAM)が優勢になっていないか

  • PD-L1の発現量は高いか低いか


これらを評価することで、

  • 免疫が“熱い”腫瘍(hot tumor)か?

  • 免疫が“冷たい”腫瘍(cold tumor)か?

を分類し、最適な治療の方向性を決めることができます。




個別化免疫治療の代表例①:ネオアンチゲンワクチン


近年、注目を集めている個別化免疫療法に、ネオアンチゲンワクチンがあります。


これは、患者ごとのがん細胞の変異を解析し、その人だけが持っている“異常なたんぱく質(ネオアンチゲン)”を特定し、それを元にワクチンを作るという完全オーダーメイド治療です。


2023年には、ModernaとMerckが共同開発したmRNAネオアンチゲンワクチンが、メラノーマ患者の再発率を44%も減少させたという臨床試験結果が報告され、世界中で大きな話題となりました。


一方でネオアンチゲンについてはいくつかの問題点も明らかになってきました。ネオアンチゲンは主に生検や手術で採取した癌組織を元に作成します。したがってその材料の入手が結構大変なのです。


また時間がたってしまうと癌のネオアンチゲンの発現状態も変わるので、最適なターゲットになりません。また癌は病巣ごとにネオアンチゲンの発現が異なります。一部の病巣では効くのに他の病巣では効かないなどの効果の不安定性も指摘されています。




個別化免疫治療の代表例②:AIによる治療選択予測


人工知能(AI)も、個別化免疫治療の実現に欠かせない存在となりつつあります。


現在、いくつかの医療AIは次のようなことが可能です:

  • ゲノム情報から効果が期待できる薬剤をリストアップ

  • 免疫細胞の画像解析から反応性の高いT細胞の有無を判定

  • 数千人分の過去データを学習し、副作用や奏効率を予測


たとえば、スタンフォード大学の研究では、AIを使って免疫療法に“反応するがん”と“反応しないがん”を90%以上の精度で予測できたという報告もあり、将来的には治療方針の意思決定支援AIが標準装備になる可能性があります。




未来のがん免疫療法は「その人だけの設計図」で進む


これまでの免疫治療は、限られたがん種に対して、比較的画一的な薬剤を使用してきました。


しかしこれからは、

  • あなたのがんに合わせて、どの抗原を標的にするか

  • どの免疫細胞をどう活性化すべきか

  • どの治療法を、どの順番で組み合わせるべきか

といったことを、データとAIが一緒に考えてくれる時代になります。


つまり、がん治療は「オーダーメイド」の時代に入ったのです。




まとめ:未来はすでに始まっている


がん免疫療法は、進行がんの切り札としてだけでなく、今や「自分自身の細胞でがんを制御する時代」の象徴となっています。


今後は、がんの種類だけでなく、「あなたのがんの遺伝子情報」「あなたの免疫の癖」「あなたの生活背景」までも治療設計に取り込まれることで、より安全に、より効果的にがんを治療できる時代が訪れます。


その第一歩として、自分の体の状態を知ること。免疫や遺伝子に目を向けること。それが、「未来の治療」に参加するということです。

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