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免疫細胞ががん増殖を助ける?!

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 4月7日
  • 読了時間: 5分

更新日:5 日前


がん治療といえば「免疫」が鍵だとよく言われます。私たちの体を守る免疫細胞は、外敵であるウイルスや細菌だけでなく、がん細胞とも戦ってくれる心強い味方…そんなイメージがありますよね。


事実、近年話題の免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬など)は、免疫の力でがんを攻撃する治療として注目されています。


しかし今回は、その常識を覆す少し驚きのお話です。なんと一部の免疫細胞は、がんの増殖を助けてしまうことがあるのです。「えっ、本当?」と疑いたくなるかもしれませんが、これはれっきとした研究の事実なのです。


■執筆者
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
 





がんの味方になる免疫細胞もいる


では、どんな免疫細胞ががんを助けてしまうのでしょうか。代表的なものを見てみましょう。



①制御性T細胞(Treg)


通常、免疫の暴走を抑えるブレーキ役のT細胞です。自己免疫疾患を防ぐために必要な「おだやか担当」ですが、がんではこのブレーキが悪用されます。


腫瘍の中ではTregが増えすぎて活性化し、攻撃役のキラーT細胞(CTL)の働きを邪魔してしまいます。その結果、免疫によるがん細胞退治が妨げられ、がん細胞は守られて増殖しやすくなるのです。まさに味方のフリをした裏切り者が、このTregなのです。



②腫瘍随伴マクロファージ(TAM)


マクロファージは本来、体内のゴミや侵入者を掃除する「掃除屋さん」。ところが腫瘍にはマクロファージの裏切り者チームが存在します。


TAMと呼ばれるそれらのマクロファージは、がん組織に集まり、なんとがん細胞の成長をお手伝いしてしまうのです。具体的には、がん細胞の周りで成長因子や血管を作る物質をせっせと放出し、腫瘍への血液(栄養)供給を促進します。


また「炎症をしずめるモード」のマクロファージに変身してしまい、他の免疫細胞による攻撃を妨げる働きもあります。


TAMが多いがんでは腫瘍の進行が早いことが分かっており、がんにとっては都合のいい助っ人になっているのです。



③骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)


ちょっと聞きなれないかもしれませんが、こちらも重要ながんの助っ人です。


MDSCは未熟な免疫細胞の集団で、がんが出すシグナルによって骨髄から血液中へ大量動員され、腫瘍の現場に駆けつけます。そこでは強力な免疫抑制パワーを発揮!栄養分を奪ったり抑制分子を放出したりして、T細胞やNK細胞(がん細胞を攻撃する細胞)の働きを弱めてしまいます。


その抑制力は先述のTregに匹敵すると言われるほどで、腫瘍周辺はまるで免疫が働きにくいバリアで覆われた状態になります。さらにMDSCは血管新生やがんの転移(ほかの場所への広がり)も手助けすることが知られており、がん細胞にとって至れり尽くせりの存在なのです。


こうした「がんの味方」に回ってしまう免疫細胞は、腫瘍の中(腫瘍微小環境)に多く潜んでいます。がん細胞はこれらをうまく利用し、自分に有利な“居心地の良い環境”を作り上げているのです。


その結果、本来ならがんと戦うはずの免疫の働きが鈍らされ、がんが伸び伸びと増殖できてしまうわけです。



今後のがん治療に向けて


免疫細胞にも「裏方」でがんを助ける存在があるなんて驚きですよね。でも、この事実がわかったおかげで新たな治療戦略も生まれつつあります。


現在の免疫療法は主に免疫のブレーキを外して攻撃力を高めるもの(例えばPD-1やCTLA-4といったチェックポイントを阻害してT細胞を元気にさせる薬)ですが、今後はがんに加担する細胞をいかに抑え込むかが重要になってきます。


例えば、腫瘍に集まったTregを減らすアプローチが研究されています。がん細胞がTregを呼び寄せるために利用している“合図”(ケモカイン)をブロックする薬剤や、Treg自体をピンポイントで排除する治療法が開発段階にあります。


また、TAMに対しては「裏切り者を味方に戻す」作戦です。TAMを本来の攻撃的なマクロファージに再教育するような薬や、腫瘍へのTAMの呼び寄せを阻止する治療が模索されています。


MDSCについても、その働きを邪魔する薬剤(例えばMDSCが放出する抑制物質の阻害や、発生源である骨髄からの動員を抑える方法)などが検討されています。


つまり、免疫のアクセルを踏むと同時にブレーキ役を外す二方面作戦が、これからのがん免疫療法のキーポイントになっているのです。


実際、現在の免疫療法でもこの考え方は一部取り入れられており、例えばCTLA-4を阻害する薬は結果的にTregの働きを弱める効果があります。今後はさらに直接的にTregやTAM、MDSCを標的とする新薬や治療法が登場し、従来の治療と組み合わせることで「がんの用心棒」を無力化できるかもしれません。


私たちの体の守護者である免疫細胞にも、実は裏方でがんに加担する者がいる──この驚きの事実は、最初はショックかもしれません。


しかし、だからこそ医療者たちは新しい策を練り、がんと免疫の戦いをより有利に運ぶ方法を見出そうとしています。


免疫の仕組みを深く知ることで、がん治療は今まさに進化を遂げようとしているのです。


読者の皆さんも「免疫=正義の味方」という見方をアップデートして、最新の研究動向にぜひ注目してみてください。



免疫療法を検討している方など、お気軽にお問い合わせください

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