がんのリンパ節転移とは? ― 仕組み・症状・治療法
- 院長 永井 恒志
- 8月8日
- 読了時間: 4分

がんの診断時や治療説明で「リンパ節に転移しています」と聞いたとき、不安を感じる方は少なくありません。
リンパ節転移はがんの進行や治療方針に大きく関わる重要なポイントです。
このコラムでは、「がんのリンパ節転移」とはどういうことなのか、その仕組み、症状、治療法についてわかりやすく解説します。

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
リンパ節とは?
リンパ節は、免疫を司るフィルターのような組織で、全身に約800個存在します。体内に侵入した異物や細菌、がん細胞などを捕えて排除する働きがあります。
リンパ節は、以下のような場所に多く分布しています:
首(頸部)
脇の下(腋窩)
足の付け根(鼠径部)
胸部・腹部・腸間膜内 など

リンパ節転移の仕組み
がん細胞は、原発巣(最初にがんができた場所)からリンパ液の流れに乗って周囲のリンパ節へ運ばれ、そこで増殖することがあります。これを「リンパ節転移」と呼びます。
乳がん → 腋窩リンパ節
大腸がん → 腸間膜リンパ節
肺がん → 縦隔リンパ節
リンパ節はがんの“監視塔”のような存在で、ここに転移があるかどうかはステージ分類の重要な基準となります。
主な症状
初期のリンパ節転移では、ほとんど無症状であることが多いです。
しかし、転移したリンパ節が大きくなると以下のような症状が出ることがあります:
首や脇のしこり(触れるとわかる)
声のかすれ(首のリンパ節が神経を圧迫)
腹部の張りや圧迫感(腹部リンパ節)
咳や息苦しさ(胸部リンパ節)
ただし、これらの症状は転移が進行した場合に見られるものであり、定期的な画像検査によるチェックが最も重要です。
リンパ節転移の意味とステージ
リンパ節への転移があると、がんのステージが1段階進むケースが多く、以下のように分類されます(例:大腸がん):
N0:リンパ節転移なし(ステージ1〜2)
N1:少数のリンパ節転移(ステージ3a〜b)
N2:複数・広範囲のリンパ節転移(ステージ3c)
リンパ節転移はがんが局所を越えて「動き始めた」サインとされ、治療においても重要な判断材料です。
治療法 ― 転移していても「治療はできる」
リンパ節転移があっても、治療が不可能になるわけではありません。
1.手術によるリンパ節郭清(切除)
・乳がんや胃がん、大腸がんでは、がんのある部位と一緒にリンパ節も摘出
・必要な範囲を正確に切除することで、再発のリスクを下げる
2.放射線療法
・リンパ節転移がある部位に放射線を照射し、がんの縮小を狙う
3. 化学療法・分子標的治療
・全身的にがん細胞を攻撃することで、転移先も同時に治療可能
・術前(ネオアジュバント)や術後(アジュバント)に用いられる
リンパ節転移=末期とは限らない
「転移」と聞くと「もう手遅れ」と思われる方もいますが、リンパ節転移だけで末期と診断されることはありません。他臓器への遠隔転移がなければ、根治を目指せる治療が可能です。
まとめ:転移の“第一歩”をしっかり対処
リンパ節転移は、がんの拡がりの一段階であり、進行度を見極めるための大切な情報です。しかし、適切な治療を行えば、予後を大きく改善できる可能性があります。
治療のゴールは「がんを消すこと」だけではなく、「再発しにくい状態をつくること」。リンパ節への転移を早期に見つけ、正確に対処することが、治療成功への鍵となります。
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