なぜ免疫治療はすぐに効果が出ないのか?
- 院長 永井 恒志
- 7月25日
- 読了時間: 5分
更新日:10月3日

がんの治療において「今、効果が出ているのか?」「この治療は本当に効いているのか?」というのは、患者様にとって最も気になる点のひとつです。抗がん剤のような従来の治療では、投与後すぐに腫瘍が縮小したり、腫瘍マーカーが下がるなど、比較的早く“目に見える反応”が得られることが多いものです。
一方で、免疫治療では、治療を開始してから数週間〜数か月が経過しても、明確な効果が見えにくいことがあります。この“反応の遅さ”が不安の原因となり、「本当に効いているのだろうか…?」と感じてしまう患者様も少なくありません。
しかし、実はこの“遅れてやってくる効果”は、免疫治療においてごく自然な現象であり、むしろ免疫が「本来の力を取り戻すプロセス」そのものだということが近年の研究で明らかになっています。
― ステージ4・末期がんでも諦めない免疫療法 ―
TEL:03-6263-8163

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
抗がん剤と免疫治療の“効き方”の違い
抗がん剤(化学療法)は、がん細胞のDNAや分裂機構に直接働きかけて破壊する「即効性のある治療」です。薬が体内に入ったその日から細胞の変化が始まり、数日〜数週間で腫瘍のサイズや血液検査の数値に変化が現れることがあります。
一方、免疫治療は「自分の免疫細胞を強く育てて、がんに立ち向かわせる治療」です。T細胞やNK細胞などの免疫細胞が、がん細胞を認識し、活性化し、増殖し、実際に攻撃を始めるまでには“時間”という準備期間が必要になります。
この“免疫の再教育”には個人差があり、3ヶ月以上かけてじわじわと効いてくるのが一般的です。そのため、最初の1〜2ヶ月で効果が見えなくても、焦る必要はありません。
「偽増悪」と呼ばれる現象もある
さらに注意すべきなのが、「免疫治療を始めたら、がんが一時的に大きくなったように見える」という現象です。これは「偽増悪(pseudoprogression)」と呼ばれるもので、実際には治療が効いている過程で起こる免疫反応のひとつです。
なぜそんなことが起きるのかというと、免疫細胞が腫瘍の周囲に集まって炎症を起こし、一時的に腫瘍が腫れて見えるからです。これは「腫瘍が悪化している」のではなく、「免疫が戦い始めた証拠」とも言えるのです。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、免疫治療の評価指標として「iRECIST(免疫療法対応RECIST基準)」を用いるよう推奨しており、従来の“サイズだけ”で判断する評価方法では判断できない免疫の動きを把握する必要があるとしています。
T細胞が「がんを学び直す」時間が必要
免疫治療は、あくまで患者様の体に備わったT細胞やNK細胞が主役です。そのため、効果が出るためには以下のようなステップが必要になります。
樹状細胞などががん抗原を取り込み、T細胞に提示する
T細胞が“敵”を学習し、活性化する
活性化T細胞がリンパ節などで増殖し、全身を巡る
実際に腫瘍の場所に到達し、攻撃を開始する
これらの流れには“数週間〜数ヶ月のタイムラグ”があるため、免疫治療では「待つ」という姿勢がとても大切になります。最近の研究(Chen & Mellman, Immunity, 2017)でも、「免疫の教育と展開には時間がかかるが、その分効果が長続きする」ということが示されています。
効果が出始めたら長期的に安定するケースが多い

免疫治療のもうひとつの特徴は、「一度効果が出始めたら、その効果が長く続く」ことです。これを「耐久的効果(durable response)」と呼びます。
実際に、メラノーマ患者様を対象とした免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験では、効果が出るまでに3ヶ月以上かかったケースが多い一方で、5年以上の長期生存に至った患者様の割合が非常に高かったことが報告されています(Larkin et al., NEJM, 2015)。
つまり、“遅れてくる効果”は“長く続く効果”でもあり、焦らず見守る価値があるのです。
「効果が出るまで待てるかどうか」がカギ
ここまでご紹介してきたように、免疫治療には「時間がかかるが、効けば長く効く」という特徴があります。そのため、免疫治療に向いている患者様の条件として、以下のような項目が挙げられます。
比較的進行が緩やかながんで、時間的猶予がある
すぐに腫瘍を縮小させなければならない状態ではない
全身状態(体力、栄養状態)が良好で、免疫細胞が元気に働ける
逆に、「すぐに命に関わるような状態」「腫瘍が急速に進行している場合」には、まず抗がん剤や放射線で緊急対応を行い、その後に免疫治療を導入する“戦略的な使い方”が必要になります。
まとめ:免疫は“ゆっくり、しかし確実に”がんに立ち向かう
免疫治療は、短距離走ではなく“マラソン”のような治療です。始めたからといってすぐに結果が出るわけではありませんが、その代わり、免疫という体の根本的な防御機構を立て直すことで、がんに負けない体をつくることができます。
だからこそ、免疫治療を受けるときには「信じて待つ」姿勢がとても大切です。そして、途中で不安になったときは、主治医や医療スタッフに素直にその思いを伝えてください。治療の評価も“従来の指標”とは異なるため、誤解を避けるためにも、医療者との情報共有が大切です。
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