がん免疫療法×○○で効果倍増?組み合わせ治療の最前線
- 院長 永井 恒志
- 4月22日
- 読了時間: 5分

がん免疫療法は、がんとの闘いにおける新たな選択肢として多くの注目を集めてきました。しかし、すべての患者に同じように効果が出るわけではなく、「免疫療法だけでは不十分」という課題も存在します。
そこで近年、さまざまな治療法を組み合わせて効果を最大化する“コンビネーション免疫療法”が大きな注目を集めています。免疫療法×抗がん剤、×放射線、×がんワクチン、×温熱療法、×分子標的薬など、あらゆる分野との融合が進んでおり、まさに“全方位戦略”が始まっているのです。
今回は、この“掛け算”の力に着目した最新の免疫治療をご紹介します。

なぜ組み合わせが必要なのか?
がんは非常に多様で、進行度・免疫環境・遺伝子異常などが患者によって異なります。
免疫療法が効くには、以下のような条件が必要です:
がん細胞が“免疫に見える”状態である
免疫細胞が腫瘍内に侵入できる環境がある
T細胞などが活性化され、ブレーキを解除されている
これらの条件が整っていないと、免疫細胞ががんに到達しても“何もしない”状態になってしまいます。
そこで、他の治療と組み合わせて、「がんを見えやすくする」「免疫を呼び込む」「免疫のスイッチを押す」ことが必要なのです。
組み合わせ治療の代表例
① 免疫療法×抗がん剤(化学療法)
化学療法は、がん細胞を直接攻撃する即効性のある治療ですが、実はがん細胞の抗原を“露出”させ、免疫が反応しやすい状態を作るという作用もあります。
たとえば:
KEYNOTE-189試験(NEJM, 2018)では、非小細胞肺がんに対して化学療法+ペムブロリズマブ(PD-1阻害剤)を併用した群が、化学療法単独よりも明らかに生存期間が延びました。
このように、“攻撃”と“免疫刺激”を両立させる戦略が効果を上げています。
② 免疫療法×放射線療法
放射線には「がんを直接破壊する」だけでなく、がんのDNA断片や抗原を露出させ、免疫を刺激する副次的効果があることがわかっています。
これによって、照射部位とは別の遠隔転移巣が縮小する「アブスコパル効果」も報告されています。
現在、免疫チェックポイント阻害剤との併用試験が複数進行中で、局所+全身制御という新しい可能性が期待されています。
③ 免疫療法×がんワクチン
がんワクチンは「がんの目印(抗原)」を免疫に教えることで、T細胞の標的認識能力を高める治療法です。免疫チェックポイント阻害剤との併用により、「教えてからブレーキを外す」流れが作れるため、相乗効果が高まることが報告されています。
例:WT1ワクチン+ペムブロリズマブ、α-GalCer DCワクチン+NK細胞併用 など。
④ 免疫療法×温熱療法(ハイパーサーミア)
がん細胞は熱に弱く、温熱刺激によってがん細胞が“ストレス抗原”を発現し、免疫細胞にとって標的になりやすくなることがわかっています。
さらに、温熱療法は腫瘍微小環境を改善し、免疫細胞が腫瘍内に入りやすくする作用もあるため、免疫治療との親和性が高いとされています。
最新の組み合わせ例:ウイルス療法との融合
コラム内でご紹介した「がんウイルス療法」も、免疫療法との相性が非常に良いことがわかっています。
たとえば:
G47Δ(デリタクト)+免疫チェックポイント阻害剤
T-VEC(ウイルス製剤)+ペムブロリズマブ → 奏効率が単独の約2倍に
ウイルスががん細胞を破壊すると同時に、がん抗原が放出されて“免疫ワクチン”のように働くことが最大の魅力です。
関連コラム:がんウイルス療法とは?
組み合わせで得られる“相乗効果”とは?
治療法を組み合わせることで、以下のような効果が得られます:
組み合わせの狙い | 得られる効果 |
がん抗原の露出(化学療法・放射線) | 免疫が標的を認識しやすくなる |
免疫細胞の浸潤促進(温熱療法) | “cold tumor”を“hot tumor”に変える |
免疫ブレーキ解除(免疫チェックポイント) | 攻撃力の最大化 |
抗原学習の補助(がんワクチン) | T細胞の精度を向上 |
腫瘍環境の改善(ウイルス、腸内環境調整) | 長期免疫応答の維持 |
このように、「免疫の目を覚ます→がんを見せる→攻撃させる→記憶させる」という一連の流れを強化できるのが、コンビネーション治療の最大の強みです。
まとめ:免疫治療は“戦略の一部”としてさらに進化する
がん免疫療法は、もはや“単独で戦う武器”ではありません。
他の治療法と連携することで、その真価を発揮する“チーム戦略”の中核として位置づけられています。
未来のがん治療は、「単剤」から「組み合わせ」へ。あなたにとって最適な“免疫コンビネーション”が、これからの治療設計の鍵を握るかもしれません。