“粘り”と“皮”のがん? ― 粘表皮がんってどんな病気?
- 医師 柳井 啓文

- 11月18日
- 読了時間: 5分
更新日:11月21日

「粘表皮がん」という少し聞き慣れない名前のがんがあります。“粘り?” “皮?”と不思議な響きですが、実は唾液腺を中心に、気管支や甲状腺など体のさまざまな場所にできることのある腫瘍です。多くの場合はゆっくり進行し、手術で治せることも多い一方、タイプによってはしっかりとした治療が必要になることもあります。
今回は、粘表皮がんについて、どんながんなのか、どこにできるのか、治療の選択肢にはどんなものがあるのかをわかりやすく解説します。免疫療法など新しい治療の可能性についても触れながら、“今知っておきたい粘表皮がんの基本”をお伝えします。
名前がちょっと変わってる?「粘表皮がん」
「粘表皮がん(ねんひょうひがん)」という名前、初めて聞く方が多いと思います。一見、「皮膚のがん?」と思うかもしれませんが、実はこのがん、唾液腺(だえきせん)や気管支、甲状腺、まれには乳腺や皮膚など、いろいろな場所にできることがあります。
「粘(ねん)」は“粘液をつくる細胞”(粘液産生細胞)「表皮(ひょうひ)」は“皮膚の表面のような細胞”のこと。(扁平上皮様細胞)この2種類の細胞に加えて、中間のような細胞(中間細胞)が混ざったような形でがんになるため、“粘表皮がん”と呼ばれています。
粘表皮がんはどこにできるの?

粘表皮がんは、実は唾液腺のがんの中で最も多いタイプです。特に耳の下にある「耳下腺(じかせん)」や、顎の下の「顎下腺(がっかせん)」に発生することが多いとされています。
ただ、気管支や甲状腺、まれに皮膚や乳腺にも発生することがあるため、場所によって症状が異なります。
唾液腺にできた場合 → 耳の下や顎の下の「しこり」、口腔内の違和感や腫れ
気管支にできた場合 → 咳や血痰(けったん)
甲状腺にできた場合 → 首のしこりや声のかすれ
粘表皮がんの進行のスピードは?
粘表皮がんには、「低悪性度(おとなしいタイプ)」と「高悪性度(進行が早いタイプ)」があります。
低悪性度のものはゆっくり進行し、手術で完全に取りきれれば再発の可能性は低いです。
高悪性度の場合は、周囲に広がったり、転移を起こすこともあります。
このため、病理検査(細胞の顕微鏡検査)で悪性度を見極めることがとても大切です。
粘表皮がんの治療の中心は手術

基本的な治療は手術での切除です。完全に取り除くことができれば、再発のリスクを大きく減らせます。
ただし、高悪性度や取りきれなかった場合には、放射線治療や化学療法を組み合わせることもあります。ただ、化学療法の効果は粘表皮がんでは限定的ともいわれています。
最近では、再発や転移のある粘表皮がんに対して、免疫療法(自分の免疫の力を利用してがんを攻撃する治療)も研究されています。
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免疫の力で再発を防ぐ可能性
粘表皮がんのように、がん細胞が「免疫から逃げやすいタイプ」では、樹状細胞ワクチン療法やNKT三種免疫細胞療法といった免疫療法が注目されています。
特に、α-GalCer樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞だけでなくNKT細胞という“免疫の司令官”を強く活性化し、がんを攻撃しやすくし、がんを逃さない免疫システムの構築を目指します。
実際、難治性の唾液腺がん患者でこの治療を行い、免疫応答の増強と長期生存が報告された例もあります(Kawano et al., Cancer Immunol Immunother, 2019)。
これらの治療はまだ研究段階ではありますが、「難治性進行がんに対する切り札」「再発しにくい体づくり」を目指す点で、今後の希望のひとつといえるでしょう。
当院の治療
まとめ:粘表皮がんの治療法は着実に進化
•粘表皮がんは、唾液腺などにできる珍しいがん
•「粘液を作る細胞」と「皮膚に似た細胞」が混ざった形をしている
•多くは手術で治せるが、悪性度によって治療方針が変わる
•再発リスクがある場合は、免疫療法などの新しい選択肢も視野に入る
名前はちょっと変わっていますが、治療技術の進歩により、粘表皮がんも「コントロールできるがん」になりつつあります。
当院はがん免疫療法専門のクリニックです。
銀座鳳凰クリニックは、「患者様の『生きる』にすべてを尽くす」をモットーに、転移がんや進行がんの患者様に対して免疫細胞治療を専門的に提供しています。

当院では、患者様ご自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増殖・活性化させた後、再び体内に戻すことで、免疫細胞ががん細胞をより効果的に認識し攻撃するよう促す治療を行っています。
主な治療法としては、
など患者様一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案しています。
※治療の適応や併用の可否に関しては医師にご相談ください。
さらに、院内に細胞培養加工施設を併設しているため、採取から培養・品質管理・投与までを院内で完結でき、外来通院で治療を受けていただけます。
銀座鳳凰クリニックは、患者様一人ひとりのがんの状態やご希望に合わせて、そのときどきで最適な治療をきめ細かくご提案しています。
標準治療が難しいと診断された方や、治療の選択肢に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。
-がん治療・免疫療法について-

■記事監修
銀座鳳凰クリニック医師
柳井 啓文
医師・医学博士。救急・集中治療医としてドクターヘリなどの救命最前線で重症患者の治療に携わる一方、オーストラリアで基礎・臨床研究に従事し複数の国際研究グループを主導、100編超の英語論文を発表。救急現場で培った判断力と先端研究で得た科学的視点を併せ持ち、再生医療・細胞治療の医療実装を推進している。





