スキルス胃がんとは?― 若い人にも起こりやすい「進行が早い胃がん」
- 院長 永井 恒志
- 5 時間前
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胃がんの中でも特に「厄介」とされるタイプに スキルス胃がん(びまん性胃がん) があります。
一般的な胃がんとは進行の仕方や症状が大きく異なり、発見が難しいため「気づいたときには進行していた」というケースも少なくありません。
今回は、このスキルス胃がんについて、特徴・診断・治療・研究の現状をわかりやすく解説します。
スキルス胃がんとは何か?
「スキルス」とはドイツ語の schirrus(硬い)に由来し、胃の壁全体が硬く厚くなるタイプの胃がんを指します。 医学的には「びまん性浸潤型胃がん」と呼ばれ、胃の粘膜の下にがん細胞が広がり、胃壁全体が硬くなるのが特徴です。
男女ともに起こりますが、比較的若い女性に多い傾向があります。
組織型としては「低分化腺がん」「印環細胞がん」が代表的です。
通常の胃がんとの違い
一般的な胃がん(腫瘤型)は「しこり(腫瘍)」を作って増えるため、胃カメラで見つけやすいのに対し、スキルス胃がんは胃壁の中にしみ込むように広がるため、表面からは異常が分かりにくいのが特徴です。
そのため:
早期に症状が出にくい
胃カメラでも見逃されることがある
診断時にはすでに進行していることが多い
という難点があります。
なぜ早期発見が難しいのか
スキルス胃がんは以下の理由で「サイレントがん」とも呼ばれます。
胃の粘膜表面に大きな潰瘍や腫瘤を作らない
自覚症状が出にくく、出ても「食欲不振・胃もたれ・体重減少」といった曖昧な症状
胃の奥深く(粘膜下)に広がるため、通常の内視鏡生検でがん細胞を採取できないことがある
そのため、診断が遅れやすく、見つかったときにはすでに胃全体や腹膜に広がっているケースが少なくありません。
スキルス胃がんの治療法
治療の基本は 外科手術+抗がん剤 です。
手術:早期で切除可能な場合は胃全摘が選択されます。
化学療法:手術が難しい進行例では抗がん剤(フルオロピリミジン系+プラチナ製剤など)が中心。
分子標的薬:HER2陽性例ではトラスツズマブ、近年は免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)も一部適応。
ただし、スキルス胃がんは抗がん剤への反応が比較的乏しく、生存率は通常の胃がんより低いのが現状です。 5年生存率は全体で20%以下と報告されており(日本胃癌学会データ)、依然として厳しい病型です。
最新の研究と希望の光
従来は「効く治療が少ない」とされてきましたが、近年いくつかの進展が見られます。
免疫療法:PD-1阻害剤がスキルス胃がんの一部で有効例を報告(Kang et al., Lancet Oncol, 2022)
遺伝子解析:びまん性胃がんは「CDH1遺伝子変異」と関連が深いことがわかり、遺伝性びまん性胃がん(HDGC)として予防的胃切除が検討されることもある
臨床試験:新規分子標的薬や併用免疫療法の研究が進行中
まとめ:厳しいがんだからこそ「知ること」が大切
スキルス胃がんは、若い人にも発症し、早期発見が難しいタイプの胃がんです。
進行が早く、治療成績もまだ十分とは言えませんが、近年は免疫療法や遺伝子医療の進歩により「未来の選択肢」が広がりつつあります。
だからこそ、
胃の症状が長引くときは早めに胃カメラを受ける
家族に胃がん(特にスキルス胃がん)の既往がある場合は遺伝子検査も検討する
標準治療に加え、臨床試験や自由診療の情報も調べておく
こうした姿勢が、スキルス胃がんに対抗する第一歩となります。
-がん治療・免疫療法について-

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
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