原発不明がんとは?―「がんの出発点が見つからない」という特別な診断
- 院長 永井 恒志

- 9月5日
- 読了時間: 4分
更新日:10月3日

がんは通常、「胃がん」「肺がん」「乳がん」のように発生した臓器=原発巣がわかります。
しかし中には「転移があるのに、どこから始まったがんなのか分からない」ケースが存在します。これを 原発不明がん(Cancer of Unknown Primary, CUP) と呼びます。
全がんの中で 2〜5%程度 を占めるとされ、日本でも毎年数千人がこの診断を受けています。今回は、原発不明がんとは何か、その特徴と治療の考え方をわかりやすく解説します。
原発不明がんとは何か?
「転移性がん」であることは確認できる
しかし、どの臓器から始まったか(原発巣)が特定できない
病理診断や画像検査をしても、最初のがんの場所が分からない
という状態を指します。
原発巣が最後まで見つからない場合もありますが、解剖で初めて判明するケースもあります。
なぜ原発が見つからないのか
原発不明がんになる理由はいくつか考えられています。
原発巣が 非常に小さく、画像検査で見えない
免疫によって原発巣が消滅してしまった
がんの性質として 転移の方が先に目立つ
原発巣の増殖が遅く、転移が先に進んでしまう
特にリンパ節転移や肝転移が「最初の症状」として見つかることが多いです。
診断のプロセス
原発不明がんと診断されるまでには、かなり詳しい検査が行われます。
画像検査:CT、MRI、PET-CT
病理検査:生検で得られたがん細胞を、特殊染色や分子マーカーで解析
遺伝子検査:最近では、がんの遺伝子プロファイルから「どの臓器に似ているか」を推定できるケースも
これらを総合しても「確定できない」ときに、初めて「原発不明がん」とされます。
治療方針の決め方
原発不明がんの治療は「原発が不明でも、転移の特徴から最も可能性が高い臓器を推定して行う」のが基本です。
リンパ節転移主体 → 頭頸部がんや乳がんを想定
肝転移主体 → 消化器がんを想定
骨転移主体 → 前立腺がん、肺がんを想定
ただし「どこを原発と考えても治療法が決めにくい場合」は、プラチナ系抗がん剤を中心とした化学療法が用いられます。
近年は、免疫チェックポイント阻害剤やがん遺伝子プロファイリング検査を使い、がんの性質に基づいて治療を選ぶ「プレシジョン・メディシン(個別化医療)」も導入されつつあります。
生存率と最新の研究
原発不明がんは、診断時にすでに進行していることが多いため、予後は一般に厳しいです。
全体の 1年生存率は約20〜30%
しかし、「頸部リンパ節に限局するタイプ」や「女性の乳腺類似のタイプ」などは比較的良好で、長期生存も期待できる
最新研究では、遺伝子プロファイルによって原発を高確率で推定し、それに基づいた治療を行うと生存率が改善することが示されています(Varghese et al., JCO, 2021)。
まとめ:原発不明がんとどう向き合うか
原発不明がんは、がん全体から見ると少数派ですが、診断や治療に特別な工夫が必要なタイプです。
「原発が見つからない=治療できない」ではない
病理・遺伝子検査を駆使して、できる限り原発を推定する
個別化医療や免疫療法が、今後の治療成績改善につながる可能性がある
患者様にとって大切なのは、「原発不明=手詰まり」ではなく、「原発が分からなくても治療戦略はある」と理解し、主治医や専門医と一緒に最適な治療を探していくことです。
-がん治療・免疫療法について-

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
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