がん治療における自由診療の必要性-選択肢を増やす
- 院長 永井 恒志
- 18 時間前
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更新日:4 分前

がん治療というと、多くの人が「保険診療=標準治療」をまず思い浮かべると思います。 抗がん剤、手術、放射線治療などは、日本の公的医療保険でカバーされており、患者様の経済的負担は3割(高額療養費制度を使えばさらに軽減)に抑えられます。
しかし一方で、がん治療には「自由診療(自費診療)」という選択肢も存在します。 これは公的保険の枠を超えた治療を受ける方法であり、患者様にとっては経済的な負担が大きくなるものの、「新しい治療」「選択肢の拡大」という意味で大きな役割を果たしています。
今回は、この「自由診療の必要性」について考えてみます。

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
標準治療(保険診療)の限界
標準治療は、科学的根拠(エビデンス)に基づいて国が承認した「最も効果と安全性が確認された治療」です。
しかし、全ての患者様に十分な効果を発揮するわけではなく、特に再発がんや進行がんでは「もう標準治療がない」と言われるケースもあります。
実際、固形がんの化学療法における客観的奏効率(腫瘍が縮小する割合)は20〜40%程度にとどまると報告されています(NCCNガイドライン, 2022)。
つまり、半分以上の患者様は「標準治療だけでは十分な効果が得られない」状況に置かれる可能性があるのです。
自由診療が選ばれる3つのケース
自由診療が必要とされる場面は、大きく以下の3つです。
国内未承認の新薬や治療を使いたいとき
例:米国FDAで承認された免疫チェックポイント阻害薬が、日本で承認されるまで数年のタイムラグがある。
再発・難治性がんで標準治療が尽きたとき
新しい分子標的薬や免疫療法など、エビデンスはあるが日本では未承認の薬を試す選択肢。
患者さんが「より積極的な治療」を希望するとき
がんワクチン療法、樹状細胞療法、遺伝子治療など、一部は研究段階にあるが「可能性を試したい」と考える患者さんも少なくありません。
臨床試験との違い
「新しい治療なら臨床試験で受ければいいのでは?」と思うかもしれません。 確かに臨床試験に参加できれば、最新の治療を無償で受けられる場合もあります。 しかし、臨床試験には以下の制約があります。
参加条件(年齢・病状・過去の治療歴など)が非常に厳しい
必ず新薬が使えるとは限らず、プラセボ群に入ることもある
治療を受けられる施設が限られている
そのため「臨床試験に参加できない患者様」にとって、自由診療は現実的な選択肢となります。
自由診療を受けるメリットとデメリット
メリット
標準治療にない新しい治療を受けられる
自分に合った治療法を探せる可能性がある
海外の先進的な医療を取り入れられる
デメリット
高額(数百万円以上かかるケースも多い)
科学的根拠がまだ十分でない治療もある
保険診療と自由診療を「混合」することは原則できない(混合診療の禁止)
患者様にとっての現実的な課題
日本では「高度先進医療」として国が認めた一部の治療は、公的保険と組み合わせることが可能ですが、多くの自由診療は全額自己負担となります。
例えば、免疫細胞療法(樹状細胞ワクチン療法など)は1クールあたり数百万円に及ぶことがあり、経済的に受けられる患者様は限られます。
一方で、米国の研究によれば「新薬を保険承認前に自由診療で受けた患者様が長期生存に至ったケース」も報告されています(Miller et al., JCO, 2019)。
つまり、自由診療は「リスクはあるがチャンスもある」という両面性を持っています。
まとめ:自由診療は「最後の希望」ではなく「選択肢のひとつ」
がん治療における自由診療は、「標準治療が効かないときの最後の望み」というイメージを持たれがちですが、実際には「自分に合った治療を広げるためのひとつの選択肢」と捉えるべきです。
確かに経済的負担は大きく、科学的根拠が十分でない治療も存在します。だからこそ、自由診療を検討する際には、主治医やセカンドオピニオンの意見を聞き、「その治療が本当に自分に合っているのか」を冷静に判断することが重要です。
がん治療は「標準治療」だけでなく、「自由診療」という道もある。それを知っておくこと自体が、患者様にとって大切な武器になるのです。
-がん治療・免疫療法について-
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