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免疫チェックポイント阻害剤って何?

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 5月30日
  • 読了時間: 6分

更新日:5月30日


疑問を持っている男女のイラスト

がんに対する新しい治療法として、世界中で急速に広がっているのが「免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor:ICI)」です。


日本でも2014年に悪性黒色腫(メラノーマ)に対する「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」が承認されたことをきっかけに、多くのがん領域に適応が広がり、今では肺がん、胃がん、食道がん、腎臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、子宮頸がんなど、さまざまながんで使われています。


では、この免疫チェックポイント阻害剤とは、一体どのような薬なのでしょうか?そして、なぜ“最後の切り札”とも言われるほど、がん治療の新たな柱として評価されているのでしょうか?



銀座鳳凰クリニック院長 永井恒志
■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。




がんが「免疫から逃げる仕組み」を止める薬


私たちの体には、日々がん細胞が発生しているといわれていますが、その多くは免疫細胞の監視によって排除されています。ところが、がん細胞は非常にずる賢く、免疫からの攻撃を逃れる手段を身につけています。


そのひとつが「免疫チェックポイント」と呼ばれる仕組みです。


このチェックポイントは、もともと自己免疫疾患を防ぐために存在する免疫の“ブレーキ”です。たとえば、T細胞という免疫細胞ががん細胞を攻撃しようとしたとき、がん細胞がPD-L1というタンパク質を発現すると、T細胞上にあるPD-1受容体と結合して攻撃が止まってしまいます。


つまり、がん細胞は「私は敵ではありませんよ」と免疫に偽装して生き延びるのです。


免疫チェックポイント阻害剤は、この偽装を解除し、免疫に再びがん細胞を「敵」と認識させて攻撃を再開させる薬です。代表的なものとして、PD-1阻害剤(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)や、CTLA-4阻害剤(イピリムマブ)があります。



PD-1阻害剤(免疫チェックポイント阻害薬)


  • ニボルマブ(オプジーボ)

作用のしくみ

がん細胞がT細胞の攻撃にブレーキをかける「PD-1とPD-L1/PD-L2」の結合をブロック。T細胞の働きを回復・活性化し、がん細胞を攻撃しやすくする。

主な特徴・ポイント

さまざまながんで使用。自己免疫反応による副作用に注意が必要。


  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ)

作用のしくみ

ニボルマブと同様、PD-1に結合して免疫のブレーキを解除。T細胞のがん攻撃力を高める。

主な特徴・ポイント

多くのがんで承認。副作用は比較的軽いことが多いが、免疫の過剰反応に注意。



CTLA-4阻害剤


  • イピリムマブ(ヤーボイ)

作用のしくみ

T細胞の働きにブレーキをかける「CTLA-4」と抗原提示細胞の結合を阻害。T細胞をより強く活性化し、がん細胞への免疫反応を高める。

主な特徴・ポイント

主に悪性黒色腫などで使用。副作用として免疫関連の炎症(大腸炎、肝炎など)に注意367。




ノーベル賞にもつながった画期的発見


このPD-1やCTLA-4というチェックポイントの存在を発見し、それを治療に応用することの有効性を示したのが、日本の本庶佑博士と、米国のジェームズ・アリソン博士です。両者は2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。


この発見により、それまで「がんは免疫では治せない」とされてきた常識が覆され、免疫治療が現実のがん治療に組み込まれる時代が始まったのです。


この治療法の革新性は、「がんそのものを攻撃するのではなく、免疫という“システム”を調整することでがんに立ち向かう」というアプローチにあります。抗がん剤や放射線のようにがん細胞を直接壊すのではなく、自分自身の防御力を蘇らせるというのが最大の特長です。




実際にどれほど効果があるのか?


もちろん、免疫チェックポイント阻害剤は“魔法の薬”ではありません。すべての患者に効くわけではなく、効果が出るかどうかはがんの種類や体質に左右されます。とはいえ、効果が出た場合の“持続性”は他の治療にない大きな魅力です。


たとえば、非小細胞肺がんを対象とした「KEYNOTE-024試験(NEJM, 2016)」では、PD-L1が高発現している患者に対し、ペムブロリズマブ単独投与が標準的な化学療法よりも有意に全生存期間(OS)を延ばすことが報告されました。


また、悪性黒色腫のCheckMate067試験(NEJM, 2015)では、ニボルマブとイピリムマブの併用によって、5年生存率が50%を超えるという驚異的な結果も示されました。


これまで「不治の病」とされてきた進行がんでも、長期生存が現実のものとなってきているのです。




副作用にも注意が必要だが管理は進化している


免疫チェックポイント阻害剤は「自分の免疫力を活性化する薬」ですので、場合によっては“過剰な免疫反応”が起こることがあります。これが「免疫関連有害事象(irAE)」と呼ばれる副作用で、自己免疫疾患に似た症状が現れます。たとえば、肺炎、肝炎、腸炎、甲状腺機能障害、皮膚炎などがその代表です。


ただし、これらの副作用は頻度がそこまで高いわけではなく、定期的な検査と早期対応によって多くは管理可能です。また、日本臨床腫瘍学会(JSMO)などが提供しているirAEマネジメントガイドラインにより、医療機関での対応体制も年々整ってきています。




免疫チェックポイント阻害剤が効きやすい人の特徴


では、この治療法が効きやすいのはどのような患者さんなのでしょうか?


ひとつの指標として使われるのが「PD-L1発現率」です。がん組織にPD-L1というタンパク質が多く発現している患者さんでは、PD-1阻害剤が効果を示す確率が高くなることが知られています。ただし、PD-L1が低くても効果が出る場合もあり、完全な判断基準ではありません。


また、最近の研究では、腫瘍の遺伝子変異量(TMB: Tumor Mutation Burden)が高い人、あるいは腸内環境(マイクロバイオーム)のバランスが良い人の方が、免疫治療に反応しやすいことが示唆されています。


今後はAIやゲノム解析を活用した「個別化免疫治療」がますます進んでいくと考えられています。




まとめ:治療のパラダイムシフトを象徴する薬


免疫チェックポイント阻害剤は、これまでのがん治療の常識を覆した革新的な薬です。がんを直接破壊するのではなく、免疫の力を回復させるという“間接的なアプローチ”で、しかも長期的な効果が期待できるという点で、がんとの新しい向き合い方を提案してくれています。


もちろん、すべての人に効くわけではありませんし、適切な選択と管理が重要ですが、「治療後の長期生存」「再発の抑制」「生活の質の維持」という観点から、これからのがん治療において欠かせない存在となっていくのは間違いありません。




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