がんと免疫力の関係 ― 特に抗がん剤による免疫力低下の影響について
- 院長 永井 恒志

- 8月29日
- 読了時間: 3分

がんの発症・進行・治療には「免疫力(体の防御機能)」が深く関わっています。
ここでは、がんと免疫の基本的な関係、そして抗がん剤が免疫力にどのような影響を与えるかについて解説します。

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
免疫とがんの関係

私たちの体の中では、毎日たくさんの「異常な細胞(がんの芽)」が生まれています。
しかし、通常は免疫細胞(特に T細胞、NK細胞、NKT細胞)がそれらを見つけ出し、排除してくれています。
この働きをがん免疫監視機構(cancer immunosurveillance)と呼びます。
T細胞:がん抗原を学習し、ピンポイントで攻撃
NK細胞:異常細胞を見つけて即座に攻撃
NKT細胞:免疫全体を活性化させる「司令塔」
免疫がしっかり働いていれば、がんは大きく育つ前に抑え込まれます。
がんが免疫をすり抜ける仕組み
がんは生き残るために、次のような方法で免疫から逃げます。
免疫チェックポイント分子(PD-L1など)の発現 → T細胞の攻撃を止める
免疫抑制性サイトカインの分泌(TGF-β, IL-10など) → 周囲の免疫を弱める
制御性T細胞(Treg)の動員 → 免疫のブレーキ役を増やす
つまり、がんは「免疫の弱点を突いて成長する」存在なのです。
抗がん剤と免疫力の関係
抗がん剤は「がん細胞を壊す」効果がありますが、同時に「正常な免疫細胞」も傷つけてしまいます。
抗がん剤による主な免疫低下
骨髄抑制:白血球(特にリンパ球、好中球)が減少し、免疫力低下
粘膜障害:口内炎や腸炎 → 感染の入り口が増える
NK細胞・NKT細胞の減少 → がん免疫の要が弱る
臨床的には、抗がん剤治療中に感染症リスクが大幅に上がることがよく知られています。例えば、シスプラチン+ゲムシタビン療法では発熱性好中球減少症が10〜20%程度に見られると報告されています。
免疫低下の影響 ― がん治療への逆風
免疫力が落ちると、次のような問題が生じます。
感染症合併 → 治療の中断
免疫のがん抑制効果が弱まる → 再発リスク上昇
免疫療法(ワクチン療法やNKT細胞療法)の効果が減少
つまり、抗がん剤は「がんを直接叩く力」と引き換えに、「体の自然な防御力」を弱めるリスクがあるのです。
免疫力を守りながら治療する工夫
最近の研究では、「抗がん剤+免疫療法」の組み合わせが注目されています。
抗がん剤で腫瘍を縮小させる
免疫療法で「残ったがん」を長期的に抑える
特にαGalCer樹状細胞ワクチン療法やNKT細胞補充療法は、抗がん剤で一時的に落ちた免疫を「再び立て直す」役割が期待されています。
例えば、胃がんや膀胱がんでNKT細胞が多い患者様は長期生存する可能性が高いというデータもあり、免疫力を維持・回復させることは非常に重要です。
まとめ
免疫は本来「がんを見張り、排除する力」を持っている。
抗がん剤はがん細胞を壊す一方で、免疫細胞も弱めてしまう。
免疫低下は感染症リスクや再発リスクを高める。
「抗がん剤で叩き、免疫療法で守る」という戦略が、今後のがん治療のカギ。
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