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〈がん免疫療法専門〉ステージ4のがん治療

脳腫瘍に対する免疫療法 ― 新しい治療の可能性と課題

  • 執筆者の写真: 院長 永井 恒志
    院長 永井 恒志
  • 9月5日
  • 読了時間: 4分

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脳腫瘍は、手術・放射線・化学療法の3本柱で治療されるのが一般的です。

特に「膠芽腫(glioblastoma)」のような悪性度の高い脳腫瘍は、標準治療を行っても再発率が非常に高く、生存期間中央値は15か月前後と報告されています(Stupp et al., NEJM, 2005)。  こうした背景から「脳腫瘍に対する免疫療法」が近年注目されています。


ここでは、脳腫瘍における免疫療法の種類・研究結果・課題をわかりやすく解説します。



なぜ脳腫瘍に免疫療法が期待されるのか


脳腫瘍は「難治性がん」の代表格です。


  • 手術で完全に取り切ることが難しい

  • 血液脳関門(BBB)のため、抗がん剤が脳に届きにくい

  • 放射線や化学療法を行っても高確率で再発する


このため「自分の免疫を使って脳腫瘍を攻撃する」というアプローチが注目されています。




脳腫瘍に対する代表的な免疫療法の種類


現在、研究・臨床応用されている主な免疫療法は以下のとおりです。


  1. ワクチン療法(ペプチドワクチン・樹状細胞ワクチン)

    • 腫瘍特異的な抗原(例:EGFRvIII、IDH1変異)を標的とするワクチンを作成

    • 患者様自身の免疫細胞に「腫瘍の目印」を学習させる


  2. 免疫チェックポイント阻害剤(PD-1/PD-L1抗体)

    • 免疫のブレーキを外し、T細胞を活性化

    • メラノーマや肺がんで成果を上げたが、脳腫瘍では効果が限定的


  3. NK細胞療法・CAR-T療法

    • 患者様のリンパ球を改変・強化し、腫瘍を直接攻撃

    • 特にCAR-Tは、膠芽腫を標的とした初期試験で安全性と一部効果を報告(Brown et al., NEJM, 2016)


  4. 腫瘍溶解ウイルス療法

    • ウイルスを腫瘍細胞内で増殖させ、破壊と同時に免疫を刺激

    • 2015年に悪性黒色腫で承認(T-VEC)があり、脳腫瘍でも研究が進行中




臨床研究での効果と限界


  • DCワクチン療法:一部の膠芽腫患者様で生存期間中央値が23か月に延長した報告(Liau et al., Clin Cancer Res, 2018)

  • PD-1阻害剤(ニボルマブ):膠芽腫に対する第III相試験では、標準治療に比べ有意な生存延長は得られなかった(CheckMate-143試験, 2017)

  • CAR-T療法:一部の患者様で腫瘍縮小を認めたが、効果は持続せず改良が必要

つまり「有効例はあるが、全体的には効果が限定的」というのが現状です。




脳腫瘍特有の課題


脳腫瘍に免疫療法を応用する際には、以下のハードルがあります。


  • 血液脳関門(BBB)により、薬剤や細胞が腫瘍に届きにくい

  • 脳は「免疫特権領域」であり、免疫反応が起きにくい

  • 過剰な免疫反応は脳浮腫や神経症状を悪化させるリスクがある




今後の展望と可能性


  • 組み合わせ療法

    免疫療法単独では効果が限定的なため、放射線や化学療法と併用する試みが進行中。放射線は腫瘍抗原を露出させるため、免疫療法との相性が良いとされる。


  • 個別化免疫療法

    遺伝子解析に基づき、患者様ごとの腫瘍抗原を標的とする「オーダーメイド免疫療法」が開発されている。


  • 腫瘍溶解ウイルス+チェックポイント阻害剤

    ウイルスが腫瘍を壊して抗原を放出 → チェックポイント阻害剤が免疫をブースト、という相乗効果が期待される。


  • WT1樹状細胞ワクチン療法

    脳の悪性腫瘍はほぼ100%WT1抗原を発現しています。そのためWT1抗原をターゲットとしたWT1樹状細胞ワクチン療法は脳内における抗腫瘍免疫を強化するのに有効です。




まとめ:免疫で脳腫瘍に挑む


脳腫瘍に対する免疫療法は、まだ発展途上ですが確実に前進しています。


  • ワクチン療法やCAR-T療法などで有効例が報告されている

  • ただし全体としては「効果は限定的」、大規模試験での有意な生存延長は示されていない

  • 血液脳関門や脳の特殊な免疫環境というハードルがある


現時点では「標準治療に代わるもの」ではなく、「標準治療を補完し、将来のブレークスルーを目指す治療」と言えるでしょう。



-がん治療・免疫療法について-


銀座鳳凰クリニック院長 永井恒志

■記事を書いた人

銀座鳳凰クリニック院長

永井 恒志

医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。



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