ステージ4乳がんの治療方法|生存率と余命と向き合いながらできること
- 院長 永井 恒志
- 6月6日
- 読了時間: 10分
更新日:9月5日

「乳がんステージ4」と診断されたとき、多くの方が最初に頭に浮かべるのは、「あとどれくらい生きられるのか?」という不安かもしれません。
“ステージ4”とは、がんが原発部位を越えて、他の臓器(肺、骨、肝臓、脳など)に転移している状態を指します。
たしかに完治(根治)は難しい段階ではありますが、「治らない=何もできない」ではありません。現代の医療では、乳がんのステージ4でも長期生存や生活の質を保つことが可能になってきています。
今回は、乳がんステージ4の生存率や余命の考え方、そして今できる治療や選択肢について、わかりやすくご紹介します。

■記事を書いた人
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
ステージ4乳がんとは?

乳がんとは、乳房にある乳腺(母乳を作る組織)にできる悪性腫瘍(がん)です。乳腺は乳汁を作る小葉と、それを乳頭まで運ぶ乳管から構成されており、乳がんの多くはこの乳管で発生します。
乳がんは日本人女性のがんの中でも罹患率が高く、早期発見・早期治療により治癒率が高い一方で、進行すると再発や転移を起こすこともあります。
自覚症状は「しこり」や「乳頭からの分泌物」「乳房の変形・皮膚の変化」などが多いですが、初期には無症状のことも少なくありません。
そして乳がんのステージ4(IV期)は最も進行した段階です。がんが乳房や周囲のリンパ節を超えて、骨・肺・肝臓・脳などの遠く離れた臓器(遠隔臓器)に転移している状態を指します。
腫瘍の大きさやリンパ節転移の有無に関係なく、遠隔転移が確認された場合はステージ4と診断されます。
乳がんステージ4の転移と症状
転移した臓器・症状によって治療のアプローチは変わってきます。以下に主な転移先の症状と考えられる治療方法をまとめました。
骨転移
骨の痛みや骨折リスクが高まります。転移部位によっては運動障害やしびれも生じることもあります。
<骨転移した場合の治療法>
放射線療法 | 痛みの強い部位や骨折リスクの高い部位に局所照射し、痛みの緩和や骨折予防を図ります。 |
薬物療法 | 全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的薬など)を基本とし、骨転移には骨修飾薬(ビスフォスフォネート製剤やデノスマブ)も併用されます。 |
手術 | 骨折の危険が高い場合、整形外科的手術を行うこともあります。 |
緩和ケア | 痛み止めやリハビリテーションも重要です。 |
肺転移
咳、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状が現れます。
<肺転移した場合の治療法>
全身療法 | ホルモン療法、化学療法、分子標的薬などが中心です。 症状が強い場合は、咳止め薬や酸素投与などの対症療法も併用します。 ごくまれに、診断や症状緩和のために手術や放射線療法を行うこともあります。 |
肝転移
初期は自覚症状が少ないですが、進行すると腹部の張りや痛み、黄疸などが出ることがあります。
<肝転移した場合の治療法>
基本は全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的薬など)です。
症状が強い場合や病変が限局している場合は、放射線療法やごく限られたケースで手術を検討することもあります。
症状緩和のための支持療法も重要です。
脳転移
頭痛、めまい、吐き気、手足のしびれや麻痺などが現れます。
<脳転移した場合の治療法>
放射線療法(全脳照射や定位放射線治療)が中心です。症状や病変の数・大きさによっては手術や化学療法も検討されます。
症状緩和のため、抗てんかん薬やステロイドなどの薬が使われることもあります。
その他(リンパ節・胸膜・腹膜など)
リンパ節転移では腫れ、胸膜転移では胸水による呼吸困難、腹膜転移では腹水や腹痛などがみられます。
<治療法>
基本は全身療法です。症状が強い場合は、胸水や腹水の排液、利尿剤、痛み止めなどの対症療法を行います。
乳がん ステージ4の生存率・余命の目安
国立がん研究センターの統計によると、乳がんステージ4の5年生存率は約40%前後とされています(診断時年齢や転移部位によって変動あり)。
一昔前までは10~20%と言われていた時代もありましたが、近年は治療の進歩により、5年・10年を超えて生活できる方も増えています。
そして「余命」とは平均値であって、あくまで“統計上の目安”であり、あなた自身の寿命ではありません。
医師が「余命半年」と伝えても、実際に5年以上元気に過ごしている方もいますし、その逆もあります。
大切なのは、「数字にとらわれすぎないこと」。今できることに目を向け、希望のある治療を前向きに検討することが大切です。
治療の目的は「治す」から「コントロールする」へ
ステージ4乳がんでは、手術によってがんを取り切ることは難しいため、治療の目的は“がんと共に生きる”ことにシフトします。
目指すのは、
がんの進行をなるべく抑える(腫瘍の縮小・安定化)
症状を和らげ、生活の質を保つ
できるだけ長く“自分らしい日常”を送る
そのために、治療法は以下のように選ばれます。
ステージ4乳がんの治療選択肢
① ホルモン療法(ホルモン受容体陽性の場合)
エストロゲンの作用を抑えることで、がん細胞の増殖を防ぎます
比較的副作用が少なく、外来での継続が可能
ホルモン療法が効かなくなったら、抗がん剤へ切り替え
② 分子標的薬
HER2陽性の場合は、ハーセプチンやパージェタなどを使用
がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的にして“ピンポイント攻撃”が可能
③ 抗がん剤(化学療法)
がんの広がりや症状が強い場合に使用
複数の薬剤を組み合わせて行うこともあり、副作用対策も進化
④ 放射線療法
骨転移による痛みや脳転移による症状を和らげるために使用
一部ではがんの縮小目的にも活用されます
⑤ 免疫療法(条件付き)
三陰性乳がんの一部では、PD-L1陽性例に対してアテゾリズマブ+化学療法が効果を示すことが確認されています(IMpassion130試験)。
今後も免疫療法の適応拡大に期待されています
乳がんの免疫療法
乳がんステージ4の治療における免疫療法は、保険診療と自由診療で受けられる内容が異なります。
区分 | 主な治療法 | 適応・特徴 |
保険診療 | 免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ等) | PD-L1陽性の三陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん) |
自由診療 | 免疫細胞療法(樹状細胞ワクチン等) | 乳がん含む多くのがんで実施可能 |
自由診療 | 光免疫療法(ICG使用) | 全身のがんに適用可能 |
保険診療で受けられる免疫療法
免疫チェックポイント阻害薬(条件付き) 乳がんでは、特に「三陰性乳がん」の一部(PD-L1陽性例)に対して、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)+化学療法の組み合わせが保険適用となっています。 ただし、すべての乳がん患者様に適用されるわけではなく、がんのタイプや遺伝子発現などの条件を満たす必要があります。その他の免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)は、現時点で乳がんへの保険適用は限定的です。
自由診療で受けられる免疫療法
免疫細胞療法(樹状細胞ワクチン療法など)
患者様自身の免疫細胞(NK細胞、T細胞、樹状細胞など)を体外で増殖・活性化し、再び体内に戻す治療法です。ほぼ全てのがんに対応できるとされていますが、保険診療のような科学的根拠や効果はまだ十分に確立されていません。 自由診療のため、治療費は全額自己負担となります。
光免疫療法(自由診療) ICG(インドシアニングリーン)などの光感受性物質を用い、レーザー照射でがん細胞を攻撃する治療法です。保険診療では乳がんは適応外ですが、自由診療では全身のがんに適用可能とされています。
どちらの治療も、医師とよく相談し、自身の病状や価値観に合った選択をすることが重要です。
がん免疫療法による乳がんステージ4の症例
当院では自由診療で免疫細胞療法によるがん治療を行っています。
症例①乳がん 肺・脊椎肋骨多発転移(StageⅣ)
診断時で既に治療開始前の状態。殺細胞剤の使用に関しては患者様本人が副作用を懸念し拒否。3か月の治療で多発縦郭リンパ節と多発腰椎転移が著明に縮小し、腰痛も消失した。
治療内容
治療費用
348万6100円
副作用
注射局所の腫れ、一時的な発熱と倦怠感
症例②乳がん 多発肝・骨転移 (StageⅣ)
化学療法に加えて、 WT1樹状細胞ワクチン療法と高活性化NK細胞療法を開始した。腫瘍マーカーの著明な低下を認め、多発肝転移巣の縮小消退を認めた。
治療内容
治療費用
395万1000円
副作用
注射局所の腫れ、一時的な発熱と倦怠感
緩和ケアは「最期の治療」ではない
ステージ4と診断され、「緩和ケアをおすすめします」と言われたとき、「もう治療はできないのか…」と落ち込む方もいます。
しかし、緩和ケアは「治療をやめること」ではなく、「生活の質を守るための医療」です。痛みや吐き気、呼吸困難、不安、うつなどへの支援を受けながら、がん治療も併用できるのです。
むしろ緩和ケアの導入が早いほど、治療の効果や生活の満足度が上がるという報告もあります。
関連コラム
自分らしく生きる選択を
乳がんステージ4は、確かに不安の多い診断です。
しかし、治療法は年々進歩しており、今では「完治を目指さずとも、がんと共に生きる」ことが可能な時代です。
長く安定した病状を保ちながら働き続ける人
家族と旅行や趣味を楽しむ人
治療を受けながら、日常を大切に生きる人
そうした“がんと共に生きる人生”を選び、前向きに生きている患者様はたくさんいます。
まとめ:「生存率」「余命」は“参考値”でしかない
「乳がんステージ4」と言われても、すべての希望が失われたわけではありません。
生存率や余命はあくまで統計にすぎず、あなたの命の時間は、あなたと医療チームがこれから創っていくものです。
治療法は進化を続け、免疫療法や個別化医療の可能性も広がっています。どうか、信頼できる医療者とともに、納得できる治療と人生の選択を見つけてください。
まずはあきらめずにご相談を。
銀座鳳凰クリニックは「患者様の『生きる』にすべてを尽くす」をモットーに、がんの患者様に対して免疫細胞治療を提供しています。

当院では、患者様ご自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増殖・活性化させた後、再び体内に戻すことで、免疫細胞ががん細胞をより効果的に認識し攻撃するよう促す治療を行っています。
主な治療法としては、
など患者様一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案しています。
※治療の適応や併用の可否に関しては医師にご相談ください。
さらに、院内に細胞培養加工施設を併設しているため、採取から培養・品質管理・投与までを院内で完結でき、外来通院で治療を受けていただけます。
銀座鳳凰クリニックは、患者様一人ひとりのがんの状態やご希望に合わせて、そのときどきで最適な治療をきめ細かくご提案しています。
標準治療が難しいと診断された方や、治療の選択肢に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。
\ 初回医療相談は無料です。/
03-6263-8163
(受付 10:00-17:00※祝休み)
▼免疫療法について詳しく
▼状況別