制御性T細胞とがんの関係 ― がんの「守護神」としての制御性T細胞 ―
- 院長 永井 恒志

- 10月7日
- 読了時間: 5分
更新日:10月22日

2025年のノーベル生理学・医学賞が、大阪大学の坂口志文氏らに授与されました。受賞理由は、免疫の過剰反応を抑える「制御性T細胞(Treg:ティーレグ)」の発見。この発見は、自己免疫疾患の理解を飛躍的に進めただけでなく、がん免疫の研究にも大きな影響を与えています。
がんは、免疫の働きが低下し、「自分の異常な細胞」を排除できなくなったときに生じます。私たちの体には本来、がんを見つけ出して攻撃する「免疫監視機構」が備わっていますが、がん細胞はそれを巧みに回避し、自らを守る仕組みを作ります。その「免疫のブレーキ役」として重要な存在が 制御性T細胞です。
本記事では、「がんの守護神」とも呼ばれる制御性T細胞の働きと、がんとの関係、さらに当院で実践している制御性T細胞を抑制する最新の治療法について解説します。
制御性T細胞とは
制御性T細胞(以下「Treg」といいます)は、免疫反応を抑える働きをもつT細胞の一種で、CD4⁺CD25⁺Foxp3⁺ という特徴的なマーカーを持ちます。本来は自己免疫疾患を防ぐために欠かせない「免疫の調整役」ですが、がんにとっては非常に都合の良い存在です。
Tregは以下のような働きをします。
他のT細胞(特にがんを攻撃するCD8⁺T細胞)の活性を抑える
抑制性サイトカイン(IL-10, TGF-β)を分泌して免疫抑制環境を形成する
樹状細胞の成熟を妨げ、がん抗原の提示能力を低下させる
その結果、がんは「免疫の攻撃」を受けにくくなり、体内で生き残りやすくなります。 まさに、Tregはがんにとっての「守護神」と言える存在です。

制御性T細胞が多いほどがんは進行しやすい
多くの臨床研究で、Tregが腫瘍組織に多く存在するほど予後が悪いことが報告されています。
卵巣がんでは、Tregが多い患者様では生存率が有意に低下
肝細胞がんでは、Tregが多いほど再発率が高い
胃がんでも、Tregの浸潤が多いほどリンパ節転移が増加
このように、Tregの増加はがんの免疫逃避と密接に関係しており、がん治療の妨げとなります。
制御性T細胞を抑える治療戦略
がん免疫療法の進歩により、「Tregのブレーキを外す」ことが、がん治療の重要な鍵となっています。現在、いくつかの治療法でこのTregの抑制効果が確認されています。
1.免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ〔商品名:ヤーボイ®〕)
イピリムマブは、CTLA-4という分子を標的とする抗体薬です。
CTLA-4はTregの表面に多く発現しており、イピリムマブはこれを阻害することでTregの働きを弱め、免疫のブレーキを解除します。
結果として、がんを攻撃するエフェクターT細胞の活性が高まり、免疫全体の抗腫瘍効果が強化されます。
関連記事:免疫チェックポイント阻害剤って何?
2.NKT細胞によるTreg抑制
NKT細胞は、自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする特殊なリンパ球です。 活性化されたNKT細胞はインターフェロンγ(IFN-γ)などの強力な免疫活性化サイトカインを分泌し、Tregの抑制的環境を打ち破ります。
当院で行っている α-GalCer樹状細胞ワクチン療法 や NKT三種免疫細胞療法 は、この仕組みを利用した治療法です。これらの治療によって、がん組織内でTregが優勢な「免疫抑制環境」から、「免疫活性化環境」へと転換を促します。
当院での治療方針
当院では、がんが作り出す免疫抑制環境を打破するために、
NKT細胞療法(α-GalCer樹状細胞ワクチン療法+NKT三種免疫細胞療法)
免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ〔商品名:ヤーボイ®〕)
を適切に組み合わせて行っています。
これにより、
Tregの過剰な抑制作用を減弱させ、
抗腫瘍T細胞やNK細胞の機能を最大限に引き出し、
免疫全体でがんを包囲・攻撃する体制を再構築することを目指しています。
特にNKT細胞活性化によるTreg抑制効果は、近年の研究でも注目されており、他の治療法との併用により治療効果を高める可能性が示唆されています。
当院はがん免疫療法専門のクリニックです。
銀座鳳凰クリニックは、「患者様の『生きる』にすべてを尽くす」をモットーに、転移がんや進行がんの患者様に対して免疫細胞治療を専門的に提供しています。

当院では、患者様ご自身の血液から免疫細胞を取り出し、体外で増殖・活性化させた後、再び体内に戻すことで、免疫細胞ががん細胞をより効果的に認識し攻撃するよう促す治療を行っています。
主な治療法としては、
など患者様一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案しています。
※治療の適応や併用の可否に関しては医師にご相談ください。
さらに、院内に細胞培養加工施設を併設しているため、採取から培養・品質管理・投与までを院内で完結でき、外来通院で治療を受けていただけます。
銀座鳳凰クリニックは、患者様一人ひとりのがんの状態やご希望に合わせて、そのときどきで最適な治療をきめ細かくご提案しています。
標準治療が難しいと診断された方や、治療の選択肢に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。
\ 初回医療相談は無料です。/

■記事監修
銀座鳳凰クリニック院長
永井 恒志
医師、医学博士(東京大学)、東海大学大学院客員准教授。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て、東京大学大学院医学系研究科の文部教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
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